消滅していく世界の中で貴方は全てを受け入れていた。その手を掴んではいけないと頭では解っているのに、体は勝手に動いてしまうものでどうしようもなかった。タイムマシンが消え、満足そうに目を閉じて微笑む貴方の手を握ると驚いたようにオレを見る。何度も夢に見た。あの日助けられなかった貴方の夢を、何度も、何度も。涙が溢れ出るよりも前に消滅していく世界からオレたちは姿を消した。
「なにやってるのよトランクス!」
少し前まで機械越しに聞いていた焦りの混じった声がクリアなものになって耳に届いた。戻ってきたんだ。大きな罪を背負い帰ってきてしまった。手に感じる温もりを離すまいと強く握ると、突然やってきた場所に戸惑っている貴方の視線がオレへと向けられる。たったそれだけで目の奥が熱くなった。
しかし時の界王神様が怒るのも当然のことをしてしまった。時間を遡り、歴史を改変するのは例え神であっても許されない。
「まさか消滅するはずだった人間を連れてくるなんて……! 歴史を変えることがどれだけ危険なことか、あなたは解っているはずでしょう」
「すみませんでした! オレはどんな罰でも受けます! ですからこの人は……っ」
過去に歴史の改変を行ってしまったことのあるオレは、それがどれほど重い罪なのかよく知っている。だからこそタイムパトロールの任務で救いたい命があっても涙を飲んで受け入れてきた。でも、この人は、この人だけは、ダメだ。オレの心がこの人を求めていたから、手を伸ばさずにはいられなかった。
「まぁまぁ落ち着かんかい二人とも」
緊迫した雰囲気を和らげたのは老界王神様だった。手には全ての歴史が記された巻物を持っている。
「こやつがおった世界は全王様によって消されてしまったのじゃから、あの時間から先の歴史は存在せん。なら、こやつがここにおっても、まぁ問題はないじゃろう」
「うーん……まぁいいわ。でも、なにかあったらちゃんとあなたに責任はとってもらうわよ」
「は、はい!」
自分の行為が浅はかであったことはもう変えようがない。それでもあの日助けられなかった貴方の命を救うことができて本当によかった。どこから説明しようか。貴方に教えたいこと、話したいことがたくさんある。大丈夫だ、焦る必要はない。だって貴方はここにいて、消えることだってないんだから。
「トランクス」
それなのに、どうして。
「おまえが生きていてくれて、よかった」
どうして悲しそうな、辛そうな瞳をしているんだろう。温かな頬を流れるそれは、オレが初めて見た貴方の涙だった。