大切な人から感じる気はいつだって静かで、穏やかで、心地よかった。心が折れそうな時、全てを諦めてしまいそうになった時、何度その気に救われたことだろう。
しかし、今目の前にいる貴方から感じるのは禍々しく重いものだった。
「ここはオレに任せて、あなたはトワを追ってください」
貴方だけを残して消えたトワをパートナーに任せ、オレは眼球の奥から迫り来る熱を必死に抑え込んだ。まさか、もう一度貴方と戦うことになるなんて考えたくもなかった。消滅していく世界から救い出し、手に入れた感情に戸惑いながら過ごしていた貴方は突然と消え、そして戻って来た。トワに洗脳されてしまった姿で。
あの時と同じだ。でも、あの時とは違う。今ここに貴方を正気に戻すことができた悟空さんはいない。今貴方を助けることができるのは自分しかいない。二度も同じことを繰り返したりするものか。
「今度こそ必ず、オレが貴方を取り戻してみせます!」
気を昂めて超サイヤ人になったオレは一切迷いのない貴方からの攻撃を受け止めるが、威力に耐えきれず地面を滑り背後の建物へと激突する。一瞬詰まった呼吸を戻す前にその場から素早く離れると、崩壊まではいかなかったはずの建物はすでに瓦礫となっていた。砕かれたコンクリートを踏み潰す貴方の瞳に宿る濁った光がゆっくりとこちらに向けられる。
やめてください。そんな眼でオレを見ないでください。見ないで? 違う。ちゃんと、ちゃんとオレを見てほしい。貴方の瞳にオレを映してほしい。グッと拳を握りしめ構えもしない無防備な貴方へと迫る。撥ね退けられようが自分の体が痛もうが、貴方の表情が歪もうが、オレは絶対に諦めない。たとえオレの声が届かなくても何度だって貴方を呼び続ける。
そうして休む暇もなく繰り返される攻防が止まったのは、貴方から受けた強烈な一撃で変身が解けた時だった。瓦礫に背を預けたオレに向けられた掌に気が集まっていく。まだ諦めたくない。もう一度その手を掴んで救ってみせるんだ。差し伸べた手が貴方へと届く前に視界は圧縮された光で埋まった。
「トラ……ン、クス……ぅ……ぅあ……どう、して……どうして……」
しかし放たれたエネルギー弾はオレではなく地面を抉り土煙を上げた。洗脳に抗っているのか頭を抱えて呻く様子に、やっと自分の声が届いたのだと、やっと自分の力だけで貴方を助けられるのだと、そう思った。苦しげな表情を浮かべながらうわ言のように繰り返される自責の言葉に、大丈夫ですよ、と声をかけることはできなかった。
「どうして俺を……助けたりしたんだ……」
愚かにもそこでようやく貴方が持つ憎しみの正体を理解した。突然姿を消したのも、洗脳されてしまったのも、再び戦うことになってしまったのも、こうして苦しんでいるのも、全部オレのせいだったのだ。オレが見て見ぬ振りをし続けてきたせいだ。でも。それでも。
「オレは貴方を失いたくありません」
貴方の望みは受け入れられないけれど、貴方の憎しみは全部受け入れます。憎しみも怒りも全部、オレは愛します。