奇妙な転入生こと孫悟飯には兄がいる。その噂を耳にしたのは彼が転入してから暫く経ったある日のことだった。
同じスクールに通っていながらなぜ気付けなかったのか。ビーデルは自分が人よりも周りを注意深く観察していると自負している。自分が気付かないはずはないのだ。もしかしたら噂はただの噂かもしれないという期待を胸に帰り際の悟飯を捕まえた。
「ねぇ悟飯くん、あなた、お兄さんがいるの?」
「あれ、言ってませんでしたっけ」
「聞いてないわよ!」
彼の秘密を見抜き、舞空術を教わるなかで彼のことを一番よく知っているのは自分だと思うようになっていった。それなのに今更になってもう一人兄弟がいることを知るなんて。それも自分よりも他の誰かが先にそれに気付くなんて。ビーデルは悔しさと同時にショックを受けた。
その後紹介された彼の兄と対面したビーデルはやはりスクールでその姿を見た記憶はなく、どういうことなのかと悟飯に詰め寄った。
「兄さんは気のコントロールがうまいからビーデルさんでも見つけられなかったんだと思いますよ」
「悟飯はもう少し周りをよく観察してから行動したほうがいい。この前の授業、随分と目立っていたようだが」
「えっ、み、見てたんですか!?」
「あれだけ高く飛べば窓際から離れていても見える」
目の前で繰り広げられる兄弟仲睦まじい会話を前に、ビーデルはむむっと眉間にシワを寄せる。表情がころころと変わる悟飯とは対照的に、緩やかに流れる川のように静かな人。自分の中にある気を感じられるようになった今なら解る。意識しないとこの人がここにいるということを頭が認識してくれない。
「なんなのよ、この兄弟」
悟飯との出会いで知らない世界が広がったと思っていたが、どうやらこの世界にはまだまだ自分の知らないことがたくさんあるみたい。困ったような表情を浮かべるビーデルだったが、心の奥では少しだけワクワクしていることにはまだ気付かないのであった。