顔で遊ぶ


 一度たりともその口元がにこりと弧を描いたところを見たことがない。今更弟のような笑顔を見せられても気色悪いだけだが、もう少し表情を柔らかくしてもいいのではないだろうか。戦闘中に眉を寄せることは多々あれど、口角や頬は鉄のように動かない。まさか固まっているわけじゃあるまいな、と擦り傷のできた頬を摘んだ。さすがに子供のような柔らかさはないが、固まっていないことは確認できて安心した。

「急にどうしたんですか」

 無言で頬を摘まれれば誰だって怪訝に思うだろう。対してラディッツは一言、お前は表情が硬すぎるとだけ告げてもう片方の頬も同じようにした。甥は抵抗することなくされるがままだ。それをいいことに摘んだ頬を軽く上に引っ張れば、合わせて口角も上がる。口元だけが無理矢理な笑みを浮かべており、これがなかなかに面白い。フッと笑いも漏らせば甥は眉を寄せて訴えるような視線を向けてくるが無視をした。
 何度か上下に頬を引っ張ってから指の力を抜く。やっと解放されたのかと息を吐く甥の、今度は顎のラインに掌を添えるようにして触れる。伝わる体温が少し高いのは筋肉を動かしたからだろう。親指でぐっと口端をマッサージするように揉んでいくと、さすがに腕を掴まれた。

「俺の顔で遊ばないでください」
「お前の表情筋を鍛えてやっているんだ。これが嫌なら別の方法にするだけだが?」
「別の方法、ですか」

 学があるわけではないが、それが表情筋を鍛えるものではないのは確かだろう。甥の頬に触れているうちに、ただ、したくなっただけなのだ。知的好奇心が湧いたのか、それはどんな方法かと問いかけるような瞳を向けてくる甥の下唇をラディッツは親指でそっと撫でたのだった。