※Zのちょっと前
地面に両手をついて水面を上から覗き込むと様々な川魚が水の中を優雅に泳いでいた。透明で綺麗な川は底の方までよく観察できる。目で見えているよりもきっと深いのだろうな、と前のめりになったところで体がひょいっと宙に浮いた。
「あんま覗き込んでると水ン中に落っこっちまうぞ」
そう言っておれを抱きかかえたのはお父さんだった。今日は川へ魚を捕りに行くというお父さんに、悟飯と一緒についてきたのだ。地面には大人よりひと回りもふた回りも大きな魚が目を回して横たわっている。今日の夕飯は焼き魚か煮魚かどっちだろう。どちらにしてもお母さんの作る料理はなんでも美味しい。帰ったら今日の夕飯はなにか聞いてみるものいいかもしれない。などと考え始めているとお父さんが周りをきょろきょろと見渡し、ん?と声を漏らした。
「悟飯はどうした? 一緒に遊んでたろ」
確かにさっきまで悟飯とは川辺に生えている植物を観察したり、小さな動物を追いかけたりしていた。きっとおれが川の生き物に夢中になっている間にどこかへ行ってしまったのだと思う。悟飯は気になるものがあると周りが見えなくなってしまうようで、一緒に森へ行ってもいつの間にか迷子になっていることが多い。そういう時、一番最初に見つけるのはいつもおれだった。
「あっち」
「よし、あっちだな」
どうしてなのか悟飯のいる場所が解るのだ。今もなんとなく居そうな方向を指差すとお父さんは疑いもせずに歩き出す。きっと、お父さんは知っているんだ。おれが感じているなにかを。だって悟飯にもお母さんにも森で生きる動物たちにもあるそれが、お父さんからはまったく感じられない。そうかと思えば、父であると確信できるほどのなにかを強く感じる時もある。あれは一体なんなのだろうか。
「チチが修行を許してくれたら、父ちゃんがいろいろ教えてやるからな」
まるでおれの考えていることが解っているのか、お父さんはにこっと笑って優しく頭を撫でてくれた。