ピッコロは少し気まずさを覚えていた。なぜなら今ここに悟飯がいないからだ。自分一人だけなら修行でもするところだが生憎と対面には表情筋の働かない子供がいる。宿敵でもある孫悟空の息子の一人で、なおかつ師弟の絆が芽生えつつある悟飯の双子の兄だ。ピッコロがその子供と二人で言葉を交わしたのは地球にラディッツが襲来したあの時だけ。それ以外は必ず悟飯が一緒にいた。
ナメック星での戦いが終わり地球へ戻っきてから早数ヶ月。時折様子を見にパオズ山へ来ては悟飯と修行をしている。今日はまだ勉強とやらが終わっていないので代わりに双子の兄が話し相手をしているというわけだ。
「ピッコロさんのおかげで悟飯は強くなりました。ありがとうございます」
しかし二人の間で話が盛り上がることはない。とくに話題もなく沈黙が続いた後、先に言葉を発したのは子供のほうであった。軽く頭を下げる子供の姿からピッコロは視線を外した。
「きさまに礼を言われるようなことではない」
「いえ、おれが言うべきです。おれがお父さんのようになれたら悟飯は戦わなくて済んだ。強くなる必要もなかった」
「……たとえきさまが孫のように強かったとしても、オレは悟飯を鍛えていたはずだ」
その答えを予想していたのか子供はそうですねと頷いた。双子はまだ子供だった。今でも子供なのは変わりないがあの時は戦いも知らない赤子同然である。幾多の戦いを経験してきたピッコロや悟空のような強さはなくて当然なのだ。だからそんなたとえ話などしても意味がない。
「ピッコロさん。あなたが守りたいと思っているものが、あなたよりも力を持っていたらどうしますか」
だがこれはもしもの話ではない。たとえの話ではない。子供が何を言いたいのかピッコロは理解することはできたが、何を考えているのかまでには及ばなかった。双子故に顔はそっくりだが中身は全くの別物だ。思えばずっと、この子供の思考にはどこか危険な香りがしていた。死んだはずのラディッツの気が蘇った時には命掛けの賭けに出た子供もろとも消してしまおうかと思ったほどだ。悲惨な結果にならなかったから問題ない、というわけにもいかない。ピッコロが気にかけるべき相手は悟飯ではなく双子の兄のほうだったのかもしれない。
「これは思ってはいけないことだと解っています。でもおれは、悟飯には弱いままでいてほしかった」
兄の名を呼び、求め、泣き叫ぶ悟飯の姿を何度嘆かわしいと思ったことか。だが実際はどうだ。依存しているのはこの子供のほうなのではないのか。ピッコロは子供の言葉を聞いてようやく今までのことが繋がったような気がした。全ては弟のために選んできた選択だったのだと。