膝を抱えながらソファに座っているパンの目線の先には何枚もの書類に目を通している男がいた。彼は父悟飯の双子の兄でパンにとっては伯父にあたる。学者である父とは違いCCと並ぶ有名企業の社長という肩書を持つ伯父は何かと仕事で地球を出ていることが多く、他の家族と比べても交流する機会は少ない。
幼い頃には何度か修行をせがんだことはあったが十歳にもなればパンの興味も普通の女の子と同様のものに変わっている。おしゃれだってしたいし、かっこいい男の子とデートだってしたい。子供扱いだってされたくないのだ。皆が自分を可愛がって心配してくれるのは解っているけれど、それに不満を抱いてしまうお年頃だ。だからパンは伯父を好いていた。
「おじさんってクールよね」
そう小さく呟くと書類に向けられていた黒い瞳と目が合う。パンの周りには賑やかな人が多い。中にはピッコロやベジータのようにクールという言葉が似合う人はいるが、彼らだって表情豊かな時がある。それに比べて伯父にはそれがない。笑ったところも怒ったところも見たことがなかった。しかしパンにとってそんなことはどうでもよかった。
「褒めているのか?」
「当たり前じゃない」
「そうか。冷たい人間とはよく言われるが、好意的なのは珍しい」
「失礼な人たちがいるのね」
「俺は正しい評価だと思っている」
パンは伯父との会話が好きだった。少し大人な気分を味わえるからだ。相手が子供だからといって分かりやすい言い方をしないところに居心地の良さを感じる。会話だけじゃなく伯父がパンを子供扱いするような態度を見せたことはほとんどなかった。周りの大人たちと同じように接してくれる。
「ねぇ、それって私が間違ってるってこと?」
「いや。貴重な見解だ。ありがたく受け取っておこう」
大人ぶりたい年頃であってもまだ十歳の子供だ。感情をうまくコントロールできずに不満を露わにしても伯父の態度は変わらない。些細な事ではあるが、それがとても嬉しかった。もう一人の叔父である悟天から、兄は子供扱いをしないのではなく弟の悟飯以外には皆同じ態度で接していると教えられたことがあった。だがパンにはそれでいい。だって特別扱いが欲しいわけではないのだから。