パオズ山の山間には通常の動体視力では追うことのできない速さで組手を行う二人組いた。ラディッツとその甥である。平日休日を問わず、二人が日々の鍛錬をかかすことはない。甥が学業を終えて帰宅してから始まった本日の日課も、気付けば夕暮れ時まで続いていた。それでも夕飯までにはまだ時間はあるだろう。そうして組手を続けていた二人が動きを止めたのは、空が急激に暗くなったからだ。
「ん、なんだ」
「誰かが神龍を呼び出したようですね」
空の様子が不自然なほど変化するこの現象に立ち会うのは初めてではない。そのため二人に特別焦りはなかった。もちろんどんな願いを叶えてもらっているのかまで把握するのは不可能だ。しかしドラゴンボールというのはそう簡単に見つけられるものではない。二人が覚えている限り、前回神龍を呼び出してからそう長い時は経っていなかった。ドラゴンボールが復活してから集めるまでの時間を考慮してもドラゴンレーダーがなければ無理だろう。
「おそらくブルマさんだと思います」
「だろうな。若返りたいとかそんなくだら、なッ!?」
「どうかしましたか?」
甥の考えに同調しながら空から視線を戻したラディッツは狼狽えた。目の前にいるのがいつもの甥ではなかったからだ。鍛え上げられた筋肉は縮小し、体のラインも一回り細い。弟のカカロットによく似た髪型はそのシルエットさえもなくなり、腰までさらりと伸びている。トレーニング用の道着の胸元を押し上げるのは立派な大胸筋ではなく柔らかな脂肪の塊だ。はっきりと言おう。甥は女になっていた。
言葉にならない声を漏らすラディッツに首を傾げた甥は、肩を撫でた長い髪の存在に気付いて自身の体を見下ろした。そこでようやく己の体に起こった変化を自覚したのだ。
「神龍には人の性別を変えることもできるんですね。さすがはデンデだ」
「関心している場合か!」
興味深そうに自分の体を見渡す甥にずかずかと近寄って道着の衿を掴んだ。こういう時に限ってなぜアンダーウェアを着ていないのか。道着の隙間から覗く発育のいい胸元から視線を逸らし、組手によって広がった衿を通常よりも深く乱暴に重ねる。ついでに腰回りが細くなったことで緩んでしまった帯もきつく締め直すと、ラディッツは甥の体を抱え上げて地面を蹴った。冷静に考えれば抱えて一緒に飛ぶことなどなかったのだが、この時ばかりはラディッツの頭も混乱を極めていた。
神龍の力で甥が女になったことは間違いないだろう。ならば今すぐに神龍を呼び出した者のところへ行き三つの願いをされる前に元に戻してもらうしかない。その一方で甥が姪でなかったことを心の底から感謝していた。腕に抱いた体は軽く、筋肉の硬さもなく柔らかい。もし最初から女であったらと考えるとこれまでの己の行動に顔が青褪めそうだ。