TS/少年トランクス


 叶えられる願いが一つだけだと思っていたトランクスと悟天は、次の願いを言えと促してくる神龍を前に顔を見合わせていた。望みはたくさんある。だが、いざこうして聞かれるとすぐには答えられなかった。そもそもドラゴンボールを集めて神龍を呼び出したのもただ見てみたかっただけという理由なのだ。一つめの願いだってテンションの上がった悟天が勢いに任せて言ったものだった。

「だいたいお姉ちゃんが欲しいってなんだよ。悟天にはもう二人もお兄ちゃんがいるだろ」
「おかあさんが『おらも娘っこが欲しいべ』って言ってたんだぁ」
「なら妹のほうがよかったんじゃないか」
「そうかな?」

 どんな風に願いが叶えられたのかトランクスは想像してみた。例えば突然知らない人が「お姉ちゃんだよ」と名乗りでてくるんじゃないだろうか。それはとてもホラーだ。きっと隣に立つ悟天はそんなことすら考えてもいない。それよりも本当に叶えられたのか、今はそればかりが気になった。トランクスが神龍に願い事が決まったらまた呼ぶからと伝えると大きな龍は光とともに消え、ただの石の玉になったドラゴンボールは四方八方へと飛んで行く。空が本来の明るさを取り戻したところで二人に大きな影が迫った。

「なぁ悟天。本当にお姉ちゃんができたのか確かめに行こうぜ」
「うん、いいよ!」

 そう言って地を蹴り宙に浮いた二人の足が何者かに掴まれる。これまでの経験から得られた感覚により反射的に掴まれていないほうの足を振り下ろした。しかし何者かにその攻撃が当たる前に二人はぴたりと動きを止めた。足を掴んでいたのは険しい表情の中にどこか焦りを滲ませたラディッツだったからである。

「言え。神龍に何を願った」
「えっとね、お姉ちゃんが欲しいってお願いしたよ」

 どこか無邪気さを含んだ悟天の言葉を聞いたラディッツは大きな溜め息を吐いて二人の足を離した。そして唸るように額を押さえる。ゆっくりと地に足を着けた二人が不思議そうにその様子を見上げていると、ラディッツの後ろから一人の女性が現れた。
 トランクスはその女性に見惚れてしまった。腰まで伸びた黒髪がふわりと風に靡いて、顔にかかった横髪がすらりとした指で耳にかけられる。目元は18号のようなクールさがあり、目が合うとドキリと胸が大きく鳴って頬が熱くなる。綺麗な人だな。なぜサイズの合っていない道着を着ているのか、なんて疑問を抱くことすらできないくらい頭がぼうっとしていた。

「……兄ちゃん?」
「はぁ? なに言ってるんだよ悟天。どう見ても女の人だろ」
「よく分かったな悟天」
「ほら!」
「えぇー!?」

 だがトランクスはすぐに目を覚ますこととなった。なにせ自分が見惚れていた女性が本当は憧れのお兄ちゃんだったからである。悟天の願いは兄を姉に変えることで叶えられていた。相手の正体が分かった途端急に恥ずかしさが込み上げてきたトランクスは顔を真っ赤にすると、ごめんなさいと言い放ち悟天を置いて飛び去ってしまった。