TS/悟飯


 グレートサイヤマンとして街の治安を守る活動を終えて帰宅した悟飯を待っていたのは双子の兄、ではなく姉であった。ただいまと自宅のドアを開けた先には母のチャイナ服を着た見知らぬ女性。しかし悟飯にはその女性が自分の兄であると直感的に解った。理由などない。あえて理由をつけるなら双子だから、だろうか。
 持っていたスクールバッグを床に落とすとそのまま女性の姿をした兄に歩み寄った。そして一回りも小さくなってしまった手を両手で握ると真剣な面持ちで少し背の縮んでしまった兄を見下ろした。

「結婚しましょう」

 突拍子もない悟飯の発言に大きく反応したのは、ソファからずり落ちた伯父のラディッツだけであった。まだまだ孫家のリズムには慣れていないらしい。

「ボクは男性で兄さんは女性です。つまりボクたちは結婚できるってことですよ」
「いや、できないぞ。女になっても俺たちが兄弟なことに変わりはない」
「解りました。ちょっと神龍に頼んで法律を変えてきますね」
「落ち着け悟飯。ドラゴンボールが復活するにはまだ時間がかかる」

 女性の姿になったからと言って兄が兄であることには変わらなかった。こんな状況になっても感情が乱れることはなく、美しくなった顔は相変わらずの無表情だ。だがそこがいいっ、と悟飯は強く胸の中で訴えた。しかし冷静な兄を前にすると自然と自分の頭も冷静さを取り戻していくもので、いよいよ悟飯は頭を抱えた。

「じゃあボクは、兄さんと結婚するにはどうすればっ……!」
「オレはどこから突っ込めばいいんだ?」

 呆れたラディッツの声も今の悟飯の耳には届いていない。冷静になれた頭の中は忙しなく思考が駆け巡っている。大好きな兄が女性になったということは自分の知らない男が兄を好きになってしまう可能性があるということ。そんなことには耐えられない。このまま誰かのお嫁さんになるのならばいっそのこと自分が結婚するべきだ。そう、今すぐにでも。だが兄の言うとおり兄弟は結婚できないのが現実。ドラゴンボールが復活するまで待てるだろうか。いや、兄のためならば待てるはずだ。そうだろう孫悟飯。
 という悟飯の胸中は本人が声に出していたためだだ漏れであった。ドラゴンボールの復活を待ちまず願うのが兄を元の姿に戻すことよりも法律を変更しようとするあたり本気度が伺えてラディッツは頬を引きつらせる。どう収拾をつけようかと未だに頭を抱える悟飯に呆れた目線を送っていると、双子の兄が弟の肩に優しく手を置いた。

「俺では悟飯に釣り合わない。お前にはもっと相応しい女性がいるはずだ」
「兄さん……っ!」

 やめろそれは追い打ちだ、とラディッツが止めようにも時すでに遅し。弟に対して兄は決して嘘をつかないことが解りきっているからかその時悟飯が受けたショックはそれはもう計り知れないものだった。