交渉中の仕事を切り上げて地球へ戻ってきた兄を驚いた様子で出迎えたのは研究発表を終えてまったりとしていた弟だった。一度宇宙へ出てしまえば最低でも二か月は帰ってこないはずであるのに、その姿を見るのは実に数週間振りだ。スーツを着ていることから実家に寄らずそのまま会いに来てくれたのだろう。そう捉えた悟飯は嬉しそうに兄を家の中へと招き入れた。しかしそこで事前に今回は遠くの星へ行くと聞かされていたことを思い出す。冷静に考えれば判ることだった。真面目な兄が仕事を放り出してまで早く帰ってきたのには何か理由があるのだと。ソファに腰を下ろした兄はスーツ姿だがその首元にネクタイは絞められておらず、ボタンも上三つほど外されている。これはただ事ではない。
「兄さん、なにがあったんですか!?」
「悟飯、なにがあった」
性格は違えど双子の息は大人になった今でも合っていた。ここに父の悟空でもいれば「おまえら仲良しだな」と笑っていただろう。だが同時に発せられた言葉は同じでも意味合いは異なっていた。弟は兄になにがあったのかを知らず、兄は弟になにかがあった事を確信している。向けられた感情の見えない眼差しには少しだけ心配の色が滲んでいた。それは生まれた時から一緒にいる悟飯にしか解らない。
「お前の気を感じた」
「それで……急いで帰ってきてくれたんですね」
「どうしてお前が戦わなければいけなかったんだ」
それは、と数日前に起きた出来事を兄に語った。レッドリボン軍が復活して新たな人造人間が生み出されたこと。自分を誘き出すために娘のパンを利用されたこと。セルマックスというかつて苦戦を強いられたセルが再び造られていたこと。それらを語りながらも悟飯の胸には歓喜の念が沸いていた。
いつまでも子供ではいられない。双子だからといってもそれぞれ歩む道は違っている。共依存のような関係からいち早く脱却したのは兄だった。それを寂しく思いながらも大人になるとはこういうことだと悟飯は自分に言い聞かせてきた。結婚して、子供ができて、その頃にはもう兄とは普通の兄弟の距離感ができていた。時が経って普通の兄弟というものに慣れてきていたのだ。
でも兄は仕事を放ってまで弟を優先した。
その事実が、表情に出ないよう必死に感情を抑えるほどに嬉しかった。幼かった頃の純粋で淡い想いが瞬時に蘇るほどに。振り返れば、戦いの中でなら一緒にいられた。一緒にいることが普通だった。悟飯は争いごとが嫌いだ。だから学者の道を迷わず選んだ。兄もそれが正しいことだと背中を押してくれた。それも嬉しかったのは確かだ。だが、今この瞬間に満ち溢れている喜びには遠く及ばない。
戦いの中でなら兄弟の歩む道は同じなのではないか、と。悟飯の中に小さな疑問が生まれたのだった。