SH/パン


 それは地球を経つ前日のことだ。

「あ!」

 母の使いで弟一家の住まいへと来た俺を一番最初に見つけたのは姪のパンであった。まだ三歳ながらもしっかりしていて、ピッコロさんとの修行のおかげか今の悟飯よりも気に敏感だ。突然来訪しては失礼だと考え、ここへ来るときは普段抑えている気を少しだけ開放している。パンはその気をしっかりと感じ取っているようだ。
 小さな手に引かれるまま家の中に入りリビングまで行くとそこにはビーデルしかいなかった。弟の気配は確かに感じる。きっと部屋に引き籠って大事な研究をしているのだろう。邪魔しては悪いだろうから用事を済ませて帰ろうと手にしていた物をビーデルへ渡す。母から託されたのは作りすぎた料理だった。それを鍋ごと持たされてしまったのだが、彼女は気にすることなく受け取ると嬉しそうにキッチンへと持って行った。

「ねぇ、パン強くなったんだよ!」

 服の裾を引っ張りながら拳を突き上げて楽しそうに笑う姪の姿は幼い頃の弟のようだった。表情が豊かで好奇心旺盛な性格がよく似ている。唯一似ていないのは強さを求める姿勢だろうか。そう考えているとパンは次第に落ち込んでいった。どうしたのかと目線を合わせるため膝を折ると、不満そうに頬を膨らませた。

「でもまだ飛べないんだ……」
「焦る必要はない。俺や悟飯がパンと同い年の頃は、まだ舞空術を会得できていなかった」
「そうなの?」

 頷いて見せると曇っていた顔が明るくなった。本当に表情がころころ変わる子だ。

「あのね、ピッコロさんがパパのおにいさんは気のコントロールがすごくうまいって褒めてたの。パンに教えて!」
「こらパン。お義兄さん忙しいんだから、あまり無茶を言ってはダメよ」
「むぅ……はーい」

 パンは強くなることへの探求心がある。父に似たそれは弟にはなかったものだ。好んで修行をする姿勢にもそれがよく表れている。まだ幼く、戦うとはどういうものなのかを知らないからこそ純粋に求めることができるのだろう。強くなりたい、と、強くなるしかなかった、では本質が全く違うのだから。
 もし同じように弟から修行をつけてくれと頼まれたら、俺はおそらく断るかもしれない。ようやく戦いから離れることができたのに自らの手で引き戻す助けなどできるはずがない。だがパンはただの悟飯の娘だ。落ち込む姿がどれだけ似ていようとも弟とは違った。

「今度地球へ戻ってきた時に教えよう」
「ほんとぉ!?」
「それまで待てるか?」
「うん! お仕事がんばってはやく帰ってきてね!」

 約束、と言って突き出された小さな小指と自分の小指を絡めた。
 大切な家族であることは理解している。けれど、もしこの子が危険と解っていながら戦いの場に向かおうとする時が来たら、俺はそれを止めはしない。強くなることへの探求を否定しない。その理由を知った時、パンはどう思うのだろうか。