SH/悟飯とピッコロ


 孫家の双子の仲が良好というのは誰の目から見ても明らかなことだ。弟は尊敬と敬愛の感情を隠すことなく表に出し、兄は行動でその存在の尊さを守ってきた。二人の関係に少しずつ変化が訪れたのはセルとの闘い以降だったとピッコロは記憶している。第三者が介入しなければいつも二人で行動を共にする双子だが、その頃から一方が距離を置き始めた。そして次第に付かず離れずな関係へと変化していった。あれほどまでにお互いに執着していた二人がこうもあっさりとそれを手放すことがなぜできるのか。ピッコロは理解できない。それは今でもそうだ。双子の母親曰く「男兄弟なんてそんなもの」という言い分にも未だ納得できていないでいる。
 それでも双子の仲は良好のままだ。誰の目から見ても。それこそピッコロの視点からでもその仲の良さを否定することはできない。

「聞いてくださいよピッコロさん!」
「どうした。やけに嬉しそうだな」
「そりゃあ嬉しいですよ! 兄さんが帰ってきてくれたんですから」

 レッドリボン軍の一件から修行を再開した悟飯がある日どこか興奮気味に報告してきた。ピッコロはやや引きながら「そいつはよかったな」と返したがすぐに疑問が浮かんだ。なぜこんなにも悟飯は喜んでいるのか。双子が世間一般でいう適切な距離を取り始めてもう何年も経っている。その間、双子の兄が仕事で地球を離れるのは何度もあった。しかしいくら地球へ戻ってきたからと言って悟飯がここまで興奮を露わにするのは今回が初めてだ。

「兄さんってば、仕事を途中で放棄してまでボクのために駆けつけてくれたんです」

 地球から離れていたのであの戦いには間に合いませんでしたが、と悟飯は表情を緩めながら語る。そこまで聞いてピッコロはなるほどと頷いた。あの兄ならばそういう行動を起こすのは不思議ではないと知っているからだ。弟のために生き、弟のために強くなり、弟のために闘うことを選択した。例え弟離れができたとしても根本の生き方までは変わらないのかもしれない。それを抜きにしても、かつての様に自分のためを思ってくれたのが悟飯は嬉しかったのだろう。
 だからこそこの喜びようが不思議でならない。兄とは違い豊かな感情に恵まれ、生きる術も自らで選択することが悟飯にはできるし、現にそうしている。なのにまるで二人を引き離し修行をさせた子供の頃のような既視感を抱く。兄への執着は幼き故だと、そう思っていた。

「やっぱり、兄さんにはボクがいないとダメなんですよね」

 優しい笑顔を浮かべてそう言った瞬間にゾッと背筋に悪寒が走る。なにか底知れぬ恐ろしいものを感じた。だがそれは一瞬のことで、すぐに緊張感はなくなる。今のはなんだったのか。困惑しながらピッコロは悟飯を見下ろした。双子の兄が弟に向けることができる唯一の感情は重く、そして宿命に似たものだ。弟の悟飯にはそれがない。ないはずだ。ならば一体、どんなものを兄へ向けているというのか。かつて神だったナメック星人と融合したピッコロでもそれを理解することができない。
 当の本人は気の抜けたニコニコとした表情をしていて、あれは気のせいだったのかと一人眉間に皺を作った。