皆ボロボロだった。海賊に侍にケモノたち。そしてCP-0まで登場したワノ国の戦場は混沌を極めている。そこら中に怪我人や屍が横たわりまさに地獄絵図だ。隊長は無事だろうか。ライブフロアで共に戦っていたが、敵を追い詰め追い込まれていくうちにいつの間にか城内へと入ってしまっていた。すぐに戻って安否を確認しなければと、危うく崩壊してしまいそうなほどボロボロになった建物の中を走り抜ける。
鋭い鉄の交わる音。腹の底を響かせる銃声。痛みに上がる悲鳴。耳に届くのはそんなものばかりだ。早いところこんな闘いを終わらせて平穏な日常に戻りたい。暖かい日差しを受けて眠りたい。
「──、──ッ」
小さな声だった。だが確かに自分の名前を呼ばれた。滑るように足を止めて周囲を見渡すと廊下に空いた穴を見つける。近づいて覗き込めば城内の地下は火の手が上がり瓦礫ばかりだ。どこもかしこもこんな有様で、誰がどこで誰と闘っているのか把握するのも難しい。
穴から飛び降りて地下へと降り立つとすぐに声の主を見つけることができた。
「イ、ゾウ……!?」
誰よりも綺麗で、誰よりも男前な、唯一無二の仲間が血まみれで倒れている。すぐに駆け寄って傷だらけの身体を抱き起すと左胸に空いた穴からは止めどなく血が溢れていた。
「イゾウッ死ぬな、死なないでくれっ!」
汚れてしまった手袋を外して傷口を抑えるが、どくどくと溢れ出る血液は指の間から漏れてしまう。どうすれば止まるんだ。どうすれば助けることができる。真っ赤に染まった手で必死に胸元を抑えていると震える温もりがそっと重なった。ハッとなって顔を見ればうっすらと瞼を上げたイゾウがこちらを見ている。
「よせ、」
「どうしてッ」
「ここが……おれの、死に場所だ」
いつもは綺麗な紅がさしている唇にべったりと血がついている。同じ赤でもこんなのはイゾウには似合わない。じんわりと視界が滲んでいって涙が零れそうになる。それを堪えるように強く目を閉じれば震える温もりが頬へと移る。
「おれのために、泣いて、くれるのか」
掌から伝わる鼓動が弱っていく。これが最期になってしまうのか。最期に見るのが泣き顔なんて、それはあまりにも悲しいじゃないか。溜まった涙が落ちないように、ゆっくりと目を開いていく。焼けた木材の焦げた匂いに混じってイゾウが好んでつけているお香の香りを僅かに感じる。ワノ国では一般的に使用されている癒しの香りだと教えてもらったことがあった。他にもたくさん教わったことがある。銃の扱いからマルコ隊長を怒らせない方法まで。思い出が、いっぱいだ。
爪の間まで血で染まった手で頬に添えられた温もりに触れた。
「泣かないよ。笑って見送る」
そう言って、多分泣きそうな顔で笑ったかもしれない。堪えきれずに涙も零れた。すると弱々しかったイゾウの手が頭の後ろに回され力強く引かれる。騒然としていた周囲の音が一瞬だけなくなり、すぐに地響きするほどの轟音が聞こえ始めた。
「海賊、ってのは……奪うもん……だろ」
力を失くした腕がするりと首を撫で、もう動かない肉体の上に落ちた。強い意志を持った瞳は光を失ってもなお、俺を見つめている。下唇を噛むと鉄の味が口内に広がった。それが自分の血なのか、それともイゾウのものなのかは解らない。抱きかかえた身体を横たえて、汚れていないほうの手で瞼を閉ざす。それから赤くなった手を見下ろし、それを拭うことなく手袋をはめて立ち上がった。
まだ闘いは終わっていない。この国を救うことが彼の望みであるなら、俺はまだ闘わなければならない。そして全て終わったらこれまでのことを何度でも思い出す。その時に思いっきり泣けばいい。
一つだけ嘘を吐いた。どんな姿でもイゾウは綺麗だ。それに、死にゆく最期の瞬間まで誰よりも男前だった。