ローと神出鬼没


 とある船に密航したナマエは乗組員の話で行き先がシャボンディ諸島であると知る。どこか聞き覚えのある名前に首を傾げながらも行ってみれば解るか、と楽観的でいた。

「ここがシャボンディ諸島かぁ」

 巨大な樹木が集合してできているその島には多くの人で賑わっていた。聞けばここには繁華街から造船所、海軍の駐屯地があるという。これまで巡った島々よりも広く見て回るだけでも数日は必要になりそうだ。また暫くは船に戻れそうもないな。そう申し訳なく思いながらも足は繁華街のほうへと向かっていく。
 まずは腹ごしらえだ。次に観光。それから海軍駐屯地に忍び込んで探し物をする。頭の中で有意義な計画を立てながら軽い足取りで歩くナマエの目が二本足で立つ白い熊を捉えた。

「あ……」

 やばい。逃げろ。と本能が警告してくる。だが面白いことに体は石のように固まって動かない。愛らしくも大きい白熊の陰から身の丈程もある大太刀を持った一人の男が姿を現す。紛れもなくあれは船長だ。ここ数か月、もしかしたら一年は経ってしまっているかもしれない。とにかく船を出てからは定期的に電伝虫で連絡をとっているものの、毎度説教口調の船長である。実際に顔を合わせたら言葉よりも先に自分の身体がバラバラにされてしまう。

「よし。ここは穏便に────逃げよう」

 静かにゆっくりと摺り足で後ろへ下がっていく。人で賑わう道の真ん中でそんな行動をしていては不審だと思われるはずだと考える余裕すらなかった。

「あ、キャプテン。ナマエがいるよ」
「あ?」

 きっと物珍しさにキラキラと瞳を輝かせて周りの建物を見ていたのであろう白熊もといベポに見つかってしまいナマエは天を仰いだ。祈る神などいないのに。見つかってしまっては仕方がない。ベポは悪くないのだ。
 全てを諦め自ら仲間の元へ赴いたナマエはバケットハットの鍔を掴んで、そっと船長の様子を覗き見た。およそ言葉では言い表せないほどの不機嫌さを前面に出している。下手したら殺されてしまうのではと冷や汗をかくほどに。バレないように小さく息を吐く。そして意を決して顔を上げた。

「た、ただいま帰りました!」
「おい。言葉がちげぇ。まずは謝罪からだ」
「長らく船に戻らず好き勝手放浪してて申し訳ありませんでした」
「"ROOM"」
「え、待ってキャプテン、今謝ったっ」
「黙れ」

 船長ことローは顔を青褪めたナマエの胸元に手を近づけ、抉り取るように心臓を抜き取った。どくん、どくん、と手の上で鼓動するそれを満足そうに見つめたあと懐に仕舞い込み歩き出す。

「今はこれで我慢してやる。てめぇをバラバラにするのは船に戻ってからだ」
「うっ……了解」

 空洞になった胸元に気持ち悪さを覚えながらそれを隠す様に普段は外している上着のファスナーを閉めたナマエは大きく息を吐いた。その背中をシャチとペンギンが労うように叩いて通り過ぎていく。優しさが身に沁みるが船に戻ったら罰として雑用を押し付けてくることを経験上知っている。

「おかえりナマエ。今回は随分長かったね」
「あぁベポ、ただいま」

 優しくするなら最後まで優しくしてほしいものだ。そう、ベポのように。

「数か所島を回ったら帰るつもりだったんだ。いつものようにね」
「キャプテンすごく心配してたよ」
「え、怒ってたの間違いじゃない?」
「心配だから怒ってるんだよ」

 その時、ベポ、と低くドスの利いた声が前方から響いた。どうやら聞こえていたらしい。しゅんとなってしまったベポを慰めていると今度はナマエの名が呼ばれる。

「俺の目の届く範囲にいろ」