「組織員の人数、潜伏場所、目的。全て話せ」
閉鎖病棟の一室。
風見の幼馴染だという一人の男。
数年前から公安が追っていた国内テロ組織のリーダー。
「君のことはなんて呼べばいいのかな?」
穏やかな表情には相手を安心させる不思議な力があった。
「ゼロ?」
それに飲まれて、一体何人の捜査官の気が触れただろうか。
「安室透?」
彼と接触するには強靭な精神力を必要とする。
「それとも」
なにがあっても隙を見せてはいけない。
「バーボン?」
なにがあっても、
「……どこまで、知っている」
心の揺れを感じさせてはいけない。
「どこまで、か……知りたいと思ったことだけ知っている」
彼がこの施設に移送されたのは、刑務所に送られてからすぐのことだった。
最初は隣室の囚人。
次は作業場が同じ囚人。
そして看守。
「俺は裕也に逮捕されるために生きてきたんだ」
その三人は罪を懺悔して自殺を図った。
「あいつに関わる人間を調べるのは当然だろう」
導いたのはこの男。
恐ろしいほど恵まれた才能を持つ男。
「──僕の質問に答えろ。全て話せ」
マインドコントロール。
「裕也はどこだ? なぜ来ない?」
「あいつはここに来れない。僕の質問に答えろ」
風見はこの男と会わせるべきじゃない。
あいつの精神は弱い。すぐに飲み込まれる。
とくにこの男相手には。
「そうか」
穏やかな顔が一変。
真面目な表情に一瞬で変わる。だがその瞳は冷え切っていた。
「頭が悪いなゼロ。俺はあいつ以外には話さない」
僕は惑わされない。
「君がとるべき行動は一つだよ安室透」
国の脅威となるこの男が、なにを口にしたとしても。
「裕也を連れて来い」
僕は操られたりしない。
「国のためを思うなら、正しい行いをしなければいけないよ。分かるだろ?バーボン」
愛する日本のためを思うなら君は行動すべきだよ、降谷零くん。
優しい笑みを浮かべて自分を迎える男に、胃を握られたような痛みが走る。
「顔色が悪いね。ちゃんと寝ているのか?」
返事を返すことなく、設けられた椅子に座る。
目を、合わせられない。
「睡眠は大切だぞ。脳が鈍ると大切な決断ができなくなる」
心配そうに伸ばされた手は、透明な壁に阻まれた。
この壁がなければ、逃げ出していただろう。
「聞いたよ、俺の刑罰」
いや、無理か。
「一生ここに閉じ込めておくんだってな」
逃げる前に囚われてしまう。
「俺の罪はそんなにも軽かったか?」
なぜ気づいてやれなかったのだろうか。
幼い頃はずっと一緒に居たというのに、なぜ。
「まだ足らなかった?」
夢を語ったあの夏。
歩むべき道を見つけたあの日。
自分だけが気づかなかった別れ道。
なぜ振り返って、そこに彼がいるかどうか確認しなかったのか。
「そっか……なら準備をしておいてよかったよ」
「……準備?」
沈んでいた意識が一気に引き戻される。
首元を汗が流れた。
「いいか裕也。今度俺を捕まえた時は、お前以外誰も接触させちゃいけない」
まるで逃走宣言だ。
そんなことできやしない。ここは厳重に警備されているんだ。
「捕まえたらお前の銃で俺の心臓を撃ち抜くんだよ」
無理だ。逃げられない。不可能だ。
「お前は優等生だからちゃんとできるよな」
数日後、その部屋から男は消えた。
そして当日担当していた捜査官が自らの腕に手錠をかけ亡くなっているのが発見された。
逃げられなかったのは、誰だ?