おまけ@
東都警察病院へ名前の見舞いに来た佐藤は病室から出てくる風見と出くわした。事件が解決したとは言え、捜査中の横暴な印象は未だ拭えていない。しかしこのまま素通りするのも大人げないので軽く会釈をしてから横を通り抜けた。風見はこちらをとくに気にしていないのか同じような動作をして何も言わずその場を去っていく。
ドアをノックし、返事が聞こえてから病室へと足を踏み入れる。枕をクッション変わりにして上体を起こしている名前は元気そうだった。
「高木刑事、無事でよかったね」
「情報が早いわね。誰から聞いたの?」
そう言いながらベッドサイドの椅子に座る。事件の後処理がありここ数日、佐藤がコナンたちと会う機会はなかった。銃で撃たれた高木の術後の様子を知るのは警察関係者だけだ。と、そこで先ほどすれ違った一人の公安刑事を思い出す。
「風見刑事に聞いたのね」
「まぁね。見舞いに来てくれたついでに事件のこといろいろ聞いたからさ」
「そう……」
見舞いと聞いて佐藤は少し違和感を覚えた。捜査中の風見の態度は傲慢で上から目線なところがあり少々、いやかなり腹が立った。事件解決のためならば多少の犠牲も厭わないと感じるほど公安の人間には冷たい印象を抱いている。だからたった一人の一般人のために見舞いをするという行為が風見に対するイメージと違った。
「あの人、意外と律儀なのね」
「んー、まぁ……律儀っつーか……」
感心したようにそう言えば名前からは煮え切らない返事が返された。また違和感だ。そういえば名前が事件に巻き込まれていたことを風見は知っていた。最初は現場にいち早く到着したのが公安だからだと思っていたが、所轄の警官の先回りをするのは公安であっても難しいはず。例えば事前にその場で事件が起きていると知っていれば別だが。
それから会議室で自分に向けられた鋭い視線。あれは一般人を巻き込んだ佐藤を咎めるようなものではなく、もっと個人的な意味を持っていたようにも思う。命の危機に晒されたのが名前だったから怒りの感情があの瞳には宿っていた。そう。まるで高木が外国人グループに連れていかれ見失ってしまった時の自分のように。
「ねぇ名前くん。貴方の恋人の警察官ってもしかして────」
おまけA
カーテンの開いた病室は暖かな陽の光が入っていて電気をつける必要がないくらい明るかった。
「工藤くんから聞いたわ。随分無茶したみたいね」
ベッドサイドの椅子に座った哀は両手を組みながらベッドの住人に呆れた目線を向けた。先日から音信不通になっていた青年が大怪我を負っていると知った時の気持ちを解っているのか。そういう想いを込めた視線を受けて名前は申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「心配かけて悪かった」
「はぁ……まったく」
哀が事の顛末を知ったのは全てが終わってからだった。冷静になれと忠告したのに結果を見ればやはり効果はなかったようだ。それほど彼にとっては譲れない事件だったのだろう。自分の命を顧みず果たさなければならなかった。正義のヒーローとは程遠い、ただの自己満足な行動でしかない。だからこそ止めることができなかった。
怖くなる。命は重いけれど簡単に失ってしまうものだと知っているから。自分の知らないところで、自分が止められなかったせいで、死んでしまったらどうしようと不安になる。
「……死んだら護れないわよ。私のこと」
まるで子供のようだ。こうして理由を与えれば無茶はしないでくれると。約束は必ず守ってくれると。その信頼を利用しているようで自分が嫌になる。いつの間にか俯いていた哀の視線は点滴の注射針の痕が残る左腕に向けられていた。その左腕が視界からなくなると、頭が少し重くなる。
「そうだな。俺は生きるよ、哀のために」
重い言葉。けれど、それを望んでいるのは紛れもなく哀自身だった。