お裾分けをされた時に借りたままだった鍋を返しに工藤邸へと行ったら「お茶でもどうですか?」と誘いを受けた。
別に断ってもよかったが今日は休日でバイトもなく哀と博士は探偵団を連れて出かけているため一人暇をしていたから仕方なくお邪魔することにした。
「丁度新しい紅茶を頂いたんですよ」
「へぇ……」
「これです」
キッチンへと向かえば棚から出した紅茶の箱を持っていた鍋と交換される。
おい、なんで渡してくるんだ。
「おい沖矢昴。これは俺が淹れろってことか?」
「ダメですか?」
「めんどくせ……」
それと大の大人が首を傾げても可愛くないからやめろ。
ここで断ってもいいがせっかくなら旨い紅茶を飲むほうがいいと判断して溜息とともに準備を進めた。
紅茶やコーヒーの淹れ方はポアロのマスターから教えてもらっているから一通りはできるが、格別上手いというわけでもない。
それなのに一度この男に淹れてやったらそれからずっと頼まれるようになってしまった。あれは失敗だったな。
「君はなんだかんだ言っても、断れない人ですよね」
「お人よしとでも言いてぇわけ?」
「いえ、頼り甲斐があるという意味です」
どう意味が違うんだ。
俺は別に誰彼構わず頼みを聞くほど優しくはない。
「ちょっと着替えてきますね」
「んー……」
そう言ってキッチンを去った男が戻ってきたのは紅茶をカップに注いだ時だ。なんてタイミングがいい。
カップを持ってリビングに向かえばそこには眼鏡をかけた優男ではなく目つきの鋭い男前がいた。
着替えるってそういう意味か。
「いいのかよ」
「素性を知っている君しかいないのだから構わんだろう」
「ふーん」
持っていたカップを片方渡せば礼とともに受け取られる。
博士の家よりも豪華なソファに座って一口。あ、これ哀が好きそう。あとで少し貰って帰ろう。
「つーかなんでいつも俺に淹れさせるんだよ」
「めんど……君がやったほうが旨いからな」
「おい誤魔化せてねぇからな」
こいつ今めんどくさいって言おうとしただろ。
ふざけんな、なに面倒ごと押し付けてんだ。
「普段頼られてると、たまには誰かに頼りたくなるものさ」
「だからってその相手を年下の俺にすんのやめろよ」
「なぜだか君には甘えたくなる」
「嬉しくねぇ……」
まぁなんだ。気持ちは分からなくもない。
この赤井という男がFBIの仲間からかなり頼られているところは何度か見たことがある。
ああも全力で信頼を寄せられるのもなかなか苦労があるんだろうな。
「君は……兄弟は?」
「あー……妹が一人」
「なるほど。だからか」
なにがなるほどなんだ。なにを一人で納得してんだこの男。
赤井はカップを片手に薄く微笑む。顔だけはいいよな。
「俺と君は似ているな」
「どこが」
「そういうところが」
全くわからん。
宇宙人と会話をしているみたいだ。
本当に、苦手なんだよこの男。誰か翻訳してくれよ。
なんで江戸川はこの男と会話が成り立つんだ?頭のいいやつしか理解できない会話なのか? そういう言語なのか?
「放っておけないんだろう?」
「……あぁそういう……確かに、あんたと似てるかも」
そういえば赤井も長男か。
確かに妹がいたおかげか甘えられたり頼られたりすると放っておけないと思うことは多い。多いというだけで必ずしもというわけじゃないけど。
とくに江戸川や哀が関わっていることはお互いに放っておくことも断ることもできない。
赤井には他にも理由があるとは思うが長男としての元々の性格がそうさせることもあるのかもしれない。
「弟と妹がいるんだっけ?」
「あぁ。妹のほうにはもう会ってるはずだ」
「何度かね。あの性格は昔から?」
「まぁな」
「そりゃ大変だったな、お兄ちゃん」
揶揄うように言ってやれば苦笑いを返された。
長男というのは皆そうなのだろうか。
頼られることに慣れてしまってそれ自体に悪い気はしない。が、逆に頼るということは苦手だ。
「おかわり、いる?」
「いただこう」
だからこうして俺も無意識に世話を焼いてしまうのかもしれない。
「君に”お兄ちゃん”と呼ばれるのも悪くないな」
「調子乗んな赤井秀一」
「フルネームで呼ばれると降谷くんを思い出す……」
「それは……なんか、ごめん」