緋色の弾丸02


 江戸川からの連絡を受けた赤井が高速道路を降りて東海コンビナートへ向けてハンドルを切った。名古屋国際空港の病院でやはりトラブルが起きたらしく、その時WSG東京のスポンサーである自動車メーカーのトップ、ジョン・ボイドが姿を消した。江戸川が予想していた通り、彼が三人目のターゲットだったというわけだ。そして空港の駐車場を慌ただしく出て行ったあの黒い車に乗せられ誘拐された。
 その病院で何が起こったのか。情報源は電話をかけても繋がらなかった哀からではなく隣でハンドルを握る赤井からだった。

「クエンチ? 病院で何度か耳にしたことはあるけど、どんな現象なんだ」
「MRIに使われている超電導磁石を低温に保つための液体ヘリウムが何らかの原因で温度が上がり気化する。それも爆発的にな」
「つまり液体から気体になったヘリウムが酸素濃度を下げるから酸欠になって命に関わる、と。でも哀たちは無事だったんだろ。それも江戸川から?」
「いや、……そうだ」

 言葉を途切らせ一度こちらを見てからすぐに前に視線を戻した赤井に顔を顰める。思い返せば江戸川との通話は短く必要最低限のやりとりしかしていなかった。病院でクエンチが起こったことも、一時的に気を失っただけで無事であったことも話している時間はなかったんじゃないか。そういえば犯人が東海コンビナートへ向かっていることが解った時も、通話相手である江戸川に向かっての開口一番が”聞こえた”だった。

「……今も”聞いてる"のかよ」
「これも彼女を守るためだ」
「それ以外に理由があってたまるか」

 なんとも仕事熱心だ。こんな時にまで盗聴とは。だがそのおかげで哀が無事だと解ったから文句も言えない。まぁ、文句を垂れたところでこの男がやめないのはすでに経験済みだ。阿笠邸にいくつか仕掛けられていると気付いた時は全部壊してやろうかと思ったが、江戸川や赤井の説得でなんとか踏み止まったのを覚えている。こいつら盗聴しすぎてて感覚が麻痺しているんだ。常識で考えてみろ。プライバシーなんてあったものじゃない。公安の彼とは順調みたいだな、なんて呑気に言われた時に思わず拳が出てしまった俺は絶対に悪くない。
 赤井の運転するマスタングは海沿いの道路から海底トンネルを抜けて東海コンビナートへと到着した。コンビナートの外れにある倉庫街をゆっくりと走りながら立ち並ぶ倉庫を見ていく。すると扉が半開きになっている倉庫が一カ所だけあり、真新しいと思われるタイヤの跡も扉へと続いていた。

「中を見てくる。君はここにいてくれ」
「言われなくてもそうする」

 扉の前で車を停めた赤井がシートベルトを外しながら放った言葉に呆れたように肩を竦める。好奇心旺盛なガキじゃないんだ、喜んでついていくわけがないだろう。
 車から降りて扉の隙間から中を窺った後倉庫へと入っていく後ろ姿を眺めていると、バイクのエンジン音が聞こえてきた。サイドミラーに映るのは空港の駐車場であわや接触事故になりかけたあのバイクだ。おそらく世良であろうライダーは倉庫の扉の前でバイクを一度停止させると、アクセルをふかしそのまま中へ猛進した。多分、赤井に向かって。さすがに無防備な相手に突っ込むことはないと思うが、正義感の強すぎる世良のことだから万が一もありえそうだ。少しだけ様子を見てみようとマスタングの助手席から降りて倉庫の扉から中を覗いた。
 扉から入る光だけで照らされた倉庫内は暗く、中の様子ははっきりと見えない。それでも二人の人物が争っている様子は捉えることができた。沖矢に変装した赤井とヘルメットを被ったままのライダー。両者ともに似通った攻め手と構え方にやはりライダーは世良で間違いないようだと確信する。

「うわ、帰りてぇ……」

 俺が呆れたのも無理もないことだ。なんで名古屋まで来て兄妹の喧嘩を見なければならないのか。まぁ正しくは喧嘩ではないのだが似たようなものだ。それより沖矢昴が自身の兄である赤井秀一だと知らない世良はともかくとして、赤井は相手をしているのが妹だと気付いていないのだろうか。俺ですら解ったのだから赤井が察せないはずはない。気付いていてなお手加減なしに相手をしているのだとしたら、妹相手にも容赦しないところはなんとも赤井らしいというか、妙に納得してしまう。
 両者が距離を取り構えたまま動かなくなったその時、倉庫の扉が自動で左右に開き始めた。なんだ、と数歩下がって身構えていると倉庫の奥の暗闇からエンジン音が鳴り響き一台の車が猛スピードで扉に向かってくる。考えるよりも先に動いた体は開く扉に沿うようにして横に飛び退いた。真横を通り過ぎた車は扉の前に停まっているマスタングにテールをぶつけて走り去る。ナンバーこそ見えなかったが空港の駐車場から追ってきた黒い車で間違いないだろう。
 遠ざかる車が倉庫街を抜けてどちらへ曲がっていくのかを見届けてから、再び倉庫の中へと目を向けた。扉が開いたおかげで先ほどよりも中の様子がよく見える。犯人の車が逃走したというのに二人はまだ攻防を続けている、かと思えばさらにもう一人増えていた。世良のバイクの後部席に乗っていた子だ。だがその動きは普通の子供とは思えないほど無駄のない洗練されたもので、なんとあの赤井が押されている。
 相手が多数になったことで不利な状況になったが、ここは乱入するのはやめておこう。もし名も知らない相手ならば手を貸すことも考えるが今回は顔見知りだからそれも憚れる。そうしてただ見学に徹している俺の耳に聞き慣れたモーター音が届いた。

「名前さん、なにしてるの?」
「事件はともかく家族のいざこざに巻き込まれるのはごめんでね」
「え? あー……」

 いつものように追跡メガネで犯人もしくは誘拐されたジョン・ボイド氏を追ってきたであろう江戸川がスケボーに乗ったまま倉庫の中を覗いて納得したように声を漏らした。

「工藤、あんま無茶すんなよ。こういう事件の時、お前はいつも張り切りすぎるからな」
「うん。名前さんもね。──世良の姉ちゃん!」

 スケボーから下りた江戸川から名を呼ばれたことで世良に隙ができた。赤井はその隙を逃さず、崩れた体勢を立て直し扉へと向かって走ってくる。そのまま道すがら俺の腕を引いてマスタングまで戻り、素早く乗り込むとエンジンをかけた。

「車は?」
「名古屋港のほうに向かった」

 カチッとシートベルトを装着する音と同時に赤井はアクセルを踏み込んだ。名古屋港方面へと向かう中、運転する男の顔をちらりと見る。世良の蹴りを食らった顔の一部に切れ目が入っていた。もちろん変装しているマスクが、だ。沖矢昴が変装している誰かだと世良に知られてしまったが、そこは上手く誤魔化すことだろう。面倒くさいからもし探りを入れられても俺は知らぬ存ぜぬを貫くだけだ。
 そこでふと、俺が名古屋にいることに江戸川が驚かなかったのを思い出して一人顔を顰めるのだった。


 空港の駐車場に戻ってきた俺たちはそこで追っていた犯人の黒い車を見つけた。当然だが車内にはもう誰もいない。
 駐車したマスタングの中、ハンズフリーのワイヤレスヘッドセットで江戸川と通話している赤井が切れ目の入ってしまった変装のマスクを脱ぎ捨てる。そして馴染みある黒いニット帽を被り、首元にある変声機をオフにすると沖矢昴ではない赤井秀一の声で「了解した」と江戸川に返した。

「ここから先は別行動だ。君は先に東京へ戻ってくれ」

 通話を切った赤井は車のサンバイザー部分に挟んでいた一枚の封筒を抜き取るとこちらへと差し出した。受け取って中身を見るとそれは新幹線のチケットだった。一体いつ用意したのか、なんてきっと無駄な質問はしないほうがいいのだろうな。

「ありがたく帰らせてもらうけど、あんたも江戸川から新名古屋駅に向かえって言われてなかったか」
「俺はやるべきことがあるからな。それと渡すものがあるから降りてくれ」
「はいはい。ったく、なんのために連れてきたんだよ」

 相変わらず必要最低限のことしか伝えてこない相手に呆れながら助手席から降りる。同じく運転席から降りた赤井がマスタングのトランクを開けたので近くに寄ると、そこにはホイールの付いた箱型の赤い機具が入っていた。どうりでライフルバックが後部座席にあったわけだと一人納得する。しかしこの機具どこかで見たことがあるなと記憶を探っていくと一つの答えに辿り着いた。
 それは数年前にバイトをしていた中古のバイクショップで見かけたものによく似ており、オートバイの月刊誌でも時々特集されている代物だ。

「これってモトコンポか」
「素体はそうだが中身は全くの別物だ」

 モトコンポとはコンパクトカーのトランクに積めることをコンセプトに製造された超小型の原付のことだ。生産はすでに終了しているが今でもバイク通の間では根強い人気がある。
 マスタングのトランクからモトコンポを降ろしボディーに収納されていたハンドル、シート、ステップを引き出す。腰を落として車体を見るとエンジンは抜かれ、モーターが搭載してあることからEV化されているようだ。さらに車体部分が少し引き伸ばせる仕様になっている。重量も随分軽量化しているらしく新幹線への持ち運びくらいなら苦にならなそうだ。あとは馬力だが搭載しているモーターを見る限り上等なものに違いない。

「確かに。これじゃあもうモトコンポなんて呼べねぇな」
「元のままでは性能が充分ではないからな。君のためにキャメルに用意させた」
「さすがFBI。なんでもありだな。で、俺になにをやらせる気?」
「それは犯人の行動次第といったところだな」

 膝に手をついて立ち上がるとフルフェイスのヘルメットとキーを渡された。なんだかんだと流されて断れない自分に溜め息を吐きたい気分だ。モトコンポに跨がってキーを差し込みグリップを少し捻ると、エンジンとは違うモーターの振動が体に伝わってくる。音も静かだから何かあってもそこまで目立たないだろう。
 できることなら新幹線でそのままのんびりと帰りたい。そう思いながらヘルメットを被ろうとした時、赤井の手が俺の左耳に触れる。驚いて振り払うよりも前に何かを取り付けてすぐに離れていった手は、赤井の片耳に着いているワイヤレスヘッドセットを指先で二度軽く叩いた。

「なにかあれば君を頼る」
「……できる限りはやってやるよ」

 キザな奴め、と心の中で吐き捨てヘルメットを被った俺はモトコンポを発進させ名古屋駅へと向かった。


 名古屋駅から川品駅行きの新幹線に乗った俺は中継されているリニアの開通セレモニーの映像をスマホで見ていた。発車直前に打ち上がった花火に観衆やリポーターが感嘆の声を上げる。演出の一部だと思われているようだが、残念ながらあれはただの目眩ましだ。無人発車するリニアに乗り込むために江戸川がボール射出ベルトを使ったと見ていいだろう。そしてその場にいる誰にも気づかれないまま、小さな探偵を乗せたリニアは定刻通り新名古屋駅を出発した。
 しばらく窓の外の景色を眺めていると車内に流れるアナウンスが間もなく新港浜駅に到着することを告げた。数分して速度が減速していき駅のホームへと入っていく。
 この新幹線に本来リニアに乗車するはずだった参加者が同乗していることは名古屋駅で確認済みだ。川品駅に着く前に少し様子でも見ておこうとデッキへ出ると、一車両前のデッキを慌ただしく走る男が視界に入った。あの男を追ったほうがいい。それはただの直感だったが俺は従った。赤井が用意した新幹線の座席はデッキに一番近い場所。恐ろしいほどの周到さだ。俺は箱型にしたモトコンポとヘルメットを持ってすぐに新幹線を降りた。
 
『犯人が新港浜駅で逃げた。追ってくれ』

 赤井から連絡が入ったのは駅の外で逃走する車に目を向けながらモトコンポに跨った時だ。追ってくれだなんて、まるで俺が犯人に気付いて新幹線を降りたとこを見ていたかのような言い草じゃないか。過度な信用をされているのか、あるいはどこかにGPS発信機でも仕込ませているのか。どちらにせよ今は指示通りに犯人の車を追うのが優先だ。

「了解」

 通話はそのままの状態にしてヘルメットを被り、逃走した車を追いかけ県道を走り出す。港北インターチェンジ付近まで来ると道路は渋滞していたが、モトコンポに乗っているおかげで連なる車の横を通り抜けることができた。FBIが改造したこのモトコンポは元の性能を優に超えていて、スピードも申し分ない。これなら車相手でも追いつくことは可能だろう。
 インカムからは赤井の他にジョディさんたちの声も聞こえる。どうやら同時通話をして情報を共有しているようだ。だが犯人がどのルートを通りどこへ向かっているのかはまだ把握できていない。

『第三京浜で東京へ行くつもりでしょうかね』
『あるいはそう見せかけて下り線から臨海部に向かったか』
「高速に乗ると思わせて下道を走ってる可能性もあるんじゃねーの」

 向かった先は知らないけど、と続けるはずだった言葉はインカムから聞こえてきたもう一人の人物に遮られた。

『僕はあまり複雑に考えないほうがいいと思ってる』

 その声の主を俺は知っている。将棋棋士の羽田秀吉。赤井の弟であり、世良の兄貴だ。直接会ったことは片手で数える程度だが話だけは方々からよく聞かされている。そんな彼がなぜ今、赤井と一緒にいるのか。という疑問はこの際気にしないほうが良さそうだ。絶対大したことない理由そうだしな。
 羽田秀吉の推測はこうだ。港北インターチェンジの先にある産業道路は東西に伸びていて、そこを西に進めば鶴見川に架かる鴨池大橋に行ける。現在の時間ならば橋の上からリニアを見ることができるのではないか、ということらしい。その推測を聞いて犯人がリニアを追っているのではないかと気付いた赤井はすぐにジョディさんへ鴨池大橋に向かうよう促した。

「ジョディさん、犯人が乗ってるのは黒の外車だ。乗り換えてる時間はなさそうだから変わってないはず」
『わかったわ!』
「で、俺も橋に向かっていいんだな、赤井」
『あぁ。だが犯人の車を見つけても君は──』
「じっとしてろって言うんだろ。解ってるよ」

 通話している間に港北インターチェンジを過ぎていたため距離でいえばこちらのほうが鴨池大橋に近い。赤井が懸念する通りジョディさんたちよりも先に俺が犯人を見つける可能性は高いだろう。だからと一人で特攻するほどの正義感は俺にはない。
 産業道路を進んでいくと方面看板に鴨池大橋の文字を見つけ交差点を曲がる。そのまま道なりに進んでいけば鶴見川に架かるアーチ橋が見えてきた。橋を中程まで行くと路肩に一台の黒い外車がハザードランプを点けて停っている。スピードを落とすことなく車の横を通り過ぎて橋を渡りきると、すぐに横道に入りモトコンポを停止させた。

「鴨池大橋で停車している犯人の車を見つけた」
『こっちももうすぐ視界に入るわ』

 それから数分もしないうちにジョディさんたちの乗るベンツが橋の反対側から走行してきた。しかしスピードを上げて近づいていくベンツに気付いたのか、犯人の車がその場から急発進して逃げていく。あとを追いかけるベンツが猛スピードで通り過ぎるのを見送り、俺も続こうとした時インカムから赤井の制止する声が聞こえた。
 FBIから提供されたモトコンポにはもう一つ便利な物が取り付けられていた。それはスマホホルダーだ。俺は手持ちのスマホをポケットから取り出し、地図アプリを起動させるとそのホルダーに設置する。画面を数回タッチして地図上に二つのマーカーを付けてからアクセルグリップを捻った。
 赤井の指示に従ってジョディさんたちは二手に別れ、俺は指定された地点へとモトコンポを走らせていた。インカムからはまるで将棋の駒を指すような采配が淀みなく聞こえてくる。それは悉く犯人の行動を先読みしていた。直接犯人の車を追っているキャメルさんが困惑するほどに正確なのだ。兄が兄なら弟も弟で普通じゃない。一体なんなんだこの兄弟は。それともプロの棋士というのはこれくらいできて当たり前なのだろうか。そう呆れている間にも俺は指示されていた一つ目のポイントに到着した。すると車体に傷のついた黒の外車が梅の木交差点を右折していくのが見えた。

「車を確認。追いかける」

 県道を走る車を追いながら少しだけ視線を落とし地図アプリに目を向けた。初手で二手に別けたジョディさんを待機させたまま動かさないのが気になる。最終的にそこに追い詰める、いや、犯人が向かっている場所が最初から解っていて配置したのか。真意はともかくとして先ほどキャメルさんが環状2号線へ向かうよう指示されていたことを思い出し、俺は犯人の車に接近していった。
 県道12号線にあるトンネル内でグリップをより捻りスピードを上げて犯人の車の前へと出た。トンネルを抜けた先には分岐点がある。サイドミラーで車のウィンカーが左折を示したと同時にブレーキレバーを握った。こちらの急ブレーキに慌てた車は左折できず、モトコンポに乗った俺を避けるように右折していった。それを見届けた俺はそのまま左折し次のポイントへと向かうと、インカムからは環状2号線を走っていたキャメルさんの驚きの声が聞こえた。先ほどの分岐点は右折すると環状2号線へと合流するルートだ。
 分岐点を左折した後、車では通れない小道を抜けていくと側道を走ってくる犯人の車を視界に捉える。新港浜陸橋下の道路へ出てきた車の横に並び、左折の道を塞ぐと苛立たしげに叫ぶ男の声がヘルメット越しにも僅かに聞こえた。FBIのベンツに体当たりしたようにこちらにも幅寄せをしてくるがもう遅い。

『新港浜陸橋下にて王手!』
『ジョディ!』

 赤井たちの声を合図に俺はブレーキレバーを握ってモトコンポのスピードを落とした。車体に接触しそうだった犯人の車はスピードをそのままに追い抜いていったが、向かう先には拳銃を構えたジョディさんが道路の真ん中に立っている。驚いた犯人が急ハンドルを切ると車はタイヤを滑らせ激しく蛇行し路肩に停まっていた車にぶつかった。かなりのスピードが出ていたせいか停車していた車に乗り上げ跳ね上がった犯人の車は、ジョディさんの頭上を越えて陸橋の柱に激突し落下した。
 横転した車から出てきた犯人の男と拳銃を向けるジョディさんとのやりとりを遠目に見ながらフルフェイスのヘルメットを取る。新鮮な空気に大きく呼吸を一つ。これ以上、俺にできることはないだろう。そもそもやれたことなんて些細なことで、俺がいなくても問題なかったように思う。赤井を無視してあのまま新幹線で帰ってしまってもよかったな。そう後悔しながら泣き崩れる犯人から視線を外した。
 程なくしてキャメルさんの運転する車が陸橋下に到着した。箱型に折りたたんだモトコンポを手に近づいていくと、遠くからサイレンの音が聞こえてくる。さっさとこの場から離れたほうが良さそうだ。借り受けたモトコンポをベンツのトランクに積み込み、ジェイムズさんの一緒に乗っていくといいという言葉に甘えて後部座席に乗り込んだ。

「ごめんなさいね、あなたまで巻き込んでしまって」
「どうせ赤井の発案だろうしジョディさんたちが気にすることないよ。それに俺は大したことしてない」
「そんなことないわ。協力ありがとう名前くん」
「私からもお礼を言うよ」
「いいってそんなの。面白いバイクにも乗れたし、文句は赤井に直接言うよ」

 リニアのほうがどうなったのか俺が知るのはもう少し後になるが、今回の騒動にFBIが関わってると知ったらきっとあの人は怒るのだろうな。江戸川の関わった事件、それもWSGという国際的なイベントで起こった事件だ。調べないはずはない。とても面倒だ。何を聞かれても知らないふりをしようと、俺は心に決めたのだった。