名前を怒らせて一発触発な場を治めた二宮から一週間の接近禁止命令を出された生駒が律儀にそれを守ったのはその日限りだった。
欠伸をしながらボーダーの施設内を歩く最近気になる彼を見つけた生駒は迷うことなくその背中を追いかけた。いや、追いかけようとした。
「ちょお、待ってくださいイコさん!」
驚きの速さで生駒の前に立ちはだかったのは隠岐だった。いつも涼しげな表情には珍しく焦りが浮かんでいる。
「そんな急いでどないした? 漏れそうなん?」
「ちゃいます!」
隠岐の脳裏に浮かぶのは「くれぐれも野放しにはするな」と猛獣使いさながら不良の彼を連れ歩く二宮の言葉だ。昨日の今日でまた彼にちょっかいを出しては今度こそ誰も止めることはできないだろう。しかも押してダメなら引いてみろのアドバイスを隠岐から受けたと知られた今、被害は生駒だけに留まるはずがない。
「あの人に近づいたらあかんって言われたやないですか」
「あれ? そうやったっけ?」
「なんでたった一日で忘れてしまうんですか……」
ニワトリやないんですから。俺は人間や。知ってますわ。そんなアホな応酬を続けていると生駒の視線が隠岐の背後に向けられた。
「なんで苗字は俺に懐かんのやろか」
心底分からんという顔をしている隊長の姿に隠岐も後ろを振り向いた。そこには荒れた噂が絶えない彼が二宮と立ち話をしていた。きっと今日の防衛任務について話しているのだろう。その様子を生駒は不思議そうに、羨ましそうに見つめるばかりで少しだけ可哀想になってくる。
「イコさんみたいなキャラだとあの人の攻略は難易度高すぎますわ」
彼が親しくしている人間は己の知る限りだと二宮と時枝だ。どちらも生駒とは真逆のタイプと言えよう。可愛い子がいたらまずは相手の好みを知り、好みに寄せていきながら仲良くなるのが攻略の糸口だ。しかし生駒はそんなことなど気にすることもなく自然体のまま接するのだから恐ろしい。
──まぁ、そこがイコさんのいいところやけど。
「難しいんか」
「難しいっすわ」
「……」
難しい顔をして口を閉じた生駒にようやく理解できたか?と期待する隠岐だったがすぐにその期待は裏切られることになった。
「なんかあれやな。難しい言われると逆に燃えるな」
「えぇー……」
急にキリッとしながらそんな言葉を嬉しそうに言い放って隠岐の横をスルリと抜けた。スキップしながら彼の元へと向かってしまう生駒に今度はもう止める気力さえ失った。そして隠岐は悟った。もう生駒を止めるのは無理なのだと。自分はできることはやったのだと。
この後起こるであろう惨事から逃げるべく隠岐は速やかにそこから逃げ出した。
与えられた一週間の接近禁止命令が一ヶ月に伸びたと報告してきた生駒の顔は清々しいくらい満足そうであった。