安心地帯


 目が覚めると視界には晴れ渡る青空と時枝の顔。春の暖かさに誘われて屋上で一人惰眠を貪っていたはずだったが、いつの間に来たのだろうか。寝る前と変わった頭の高さと柔らかな感触に膝枕をされているのだと気付く。相手が時枝ではない他の男なら気色悪いと暴言の一つでも吐くところだが、この子なら別にいいかと思ってしまう。俺を見下ろす慈愛に満ちた表情が、そう思わせるのだろう。
 そっと手を伸ばして頬に触れるとピクリとした反応が伝わってきた。寝起きの俺と同じかそれ以上の体温がじんわりと手に移ってくる。人の温もりは好きだ。とくに優しい温もりは。

「嬉しそうだな」
「はい……あなたの寝顔が見れたので」

 どうして俺なんかの寝顔を見れたことが嬉しいのか、なんてそんな野暮なことは聞かない。応えは薄々気付いているからだ。昔からそういうことには鋭かった。良くも、悪くも。
 俺は、時枝の望むような応えを伝えることはできないだろう。この子もきっとそれに勘付いている。俺がこの関係をとても心地よく思い、癒されていることも。聡明な時枝はおそらく解っている。だからなにも言わないでいてくれている。

「もう少しこのままでもいいですか?」
「あぁ、いいよ」

 そんな時枝の優しさに、時々、俺は無性に泣きたくなる。