酷い男


※ボーダー残留で時枝くんとお付き合いIF

 優等生ばかりのボーダーで不良と名高い俺に話しかけてくるのは余程の物好きか、お節介な奴か、説教をしたがる奴か、だ。

「充と別れてくれないか」

 煙草も吸わないのにわざわざ喫煙ルームにまでやってきた嵐山はどの部類だろうか。お節介が一番近いかもしれない。けれどこの場合は俺に対してではない。話の内容的にも説教とは言わないまでも同じようなことをするに違いない。権利はあると思う。隊長として隊員を気に掛けるのは当然のことだ。

「俺が決めることじゃない」
「そうやってまた充に委ねるつもりなのか」
「あいつが選んだ」
「正すのはおまえだ」
「俺に真っ当さを求めてるのか?」

 あまりにも常識的で尤もな意見に鼻で笑って煙草を口に咥えた。腹立たしい。頭では理解していることを改めて他人から突き付けられるこの感覚は何度も味わってきた。善悪の区別もつかない子供だと思っているのだろうか。まさか。解っているに決まってるだろう。そのせいで自分でも腹が立っているのだから。
 イラつきを誤魔化すように口内を煙で包んでゆっくりと吐き出した。天井に向かって消えていく白いモヤを眺めながら、淡い想いを告げられたあの日を思い出す。

「俺が言ってないとでも? 後悔するって、お前を傷付けるかもしれないって、しつこいくらいに何度も言ってんだよ」

 それでも尚、あなたがいいと選んだのは時枝で拒めなかったのは俺だった。

「あいつに言ってやれよ。俺と別れたほうがいいって」
「それは……できない。嬉しそうにおまえとのことを話す充を悲しませたくはない」

 だから俺から別れを告げて欲しいと。優しい時枝を傷つけて欲しいと。甘い顔をして随分と残酷なことを言う。それとも誰かに向けた親切心の裏で誰かに刃を向けていると気付いていないのか。でもそれを責めたりはしない。俺も嵐山と同じだから。考え方や方法が違うだけで想いは一緒だ。

「俺だって、あいつを泣かせたいわけじゃない」

 時枝から向けられた好意に応えることはできない。けれど受け入れた。与えられた好きという言葉を返すことはできない。ただ受け止めるだけ。それ以上のこともそれ以下のこともしない。ボーダーの奴等からすれば酷い男だと思われても仕方のない所業だ。それでも俺にとってはこれが唯一、時枝を大切にする方法だった。