手を引かれて



 カチャカチャとコントローラーを弄る音。聞き慣れたBGM。私が動かすキャラクターの動きに合わせて鳴る効果音。ゲームのクリアまであと少し。
 疲れれば眠って、目覚めれば母が置いていってくれた食事に手を付けた。朝食なのか昼食なのか夕食なのか、よく分からない。閉め切られた重いカーテンはずっと開かれていない。
 たまに二つ下の妹がやってくる。妹は何か言いたそうな顔で、けれど何も言わず私の隣でテレビに映るゲーム画面を見ていたり私とゲームで対戦したり。ゲームをすることに疲れたら本も読んだ。本は母が持ってきたり妹が持ってきたり、気付けば部屋に少しずつ増えている。部屋に閉じ篭ったままだというのに暇潰しには事欠かない。
 ずっと、何年も同じ毎日の繰り返し。
 トイレも風呂も、誰もが寝静まった頃に使った。
 誰とも会話なんてしたくない。本当は誰とも会いたくないけれど、妹だけは許せる。大好きな愛しい妹。

「お姉ちゃん」

 あのね、わたし。
 妹が、ヒカリが、久し振りに声を掛けてきた。ヒカリはこんな声だっただろうか。最後に声を聞いたのはまだこの子がうんと小さい頃だった。
 きゅっとコントローラーを持っていた手を掴まれる。私より一回り小さかった手は、私と同じ大きさになっていた。

「お姉ちゃんに、着いてきてほしいの」

 もう二度と外になんて出たくない。そう言って部屋に閉じ篭った七歳の私。皆腫れ物を触るかのように私をそっとしておいてくれた。それで良かった。自分で閉じ篭ったのだからそれで良いと、思い込んで自分まで騙した。

 手を引かれて、すんなりと私は部屋を出る。
 騙して押し込めていた本音が浮かぶ。

 なんて自分勝手で醜い本音だろう。
 自嘲の笑みを零せば、普通に笑ったのだと思ったのかヒカリも微笑んだ。
 晴れやかな笑顔は、名前の通り私の光だ。

 自分で閉じ篭って、暗い部屋で求めていたのは、私を連れ出してくれる人。
 結局のところ私はただ、構われたかっただけなんだ。



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