今日は俺の誕生日。
彼女はそんなこと知る由もないのに。
夕食の品目がいつもより多かったり、どれも俺の好物だったり。いつもはシャワーで済ませるバスルームにいい香りの湯が沸いていたり。風呂から出たら紅茶とケーキ──ではなく、上等な酒と肴が用意されていたり。リビングのステレオから流れている音楽がどれも好きな曲だったり、フロアランプの調光がなんだかちょっぴりいつもよりメロウだったり、バスルームから戻ってきた彼女のランジェリーが、クラクラくるほど俺好みだったり。
「こんなに特別扱いされちゃうと、期待しちゃうなァ」
「何をです?」
「プレゼント」
ダンスに誘うように両手を引き、彼女をソファーの隣に招く。彼女は大胆かつ気品に満ちた仕草で、俺の膝の上に対面で座る。いよいよ、期待してしまう。
「俺、今日誕生日」驚かせるつもりで言ったのに。
「ええ。知っていますよ」
「えっ、」
どうして、とか。誰から聞いたの、とか。訊くよりも早く彼女の指先が髪を撫で、小さな唇が耳たぶに触れる。
「──欲しいですか? プレゼント」
耳腔に浸み渡る甘い声。絡みつくような妖しい眼差し。
……ああ。一切の思考は後回しにして、今は、存分に楽しませてもらおうじゃないか。