「遺跡荒らし?」
ハルルの街の
結界魔導器を直せる魔導士を探しに東へ歩みを進めること数十分。フレンとリナリア達は洞窟の中に潜む街──学術都市アスピオへと訪れていた。洞窟の中に作られたこの街は一年を通して日光が入らず、常に薄暗い。おまけに湿気も多く、じめじめした空気が纏わりつき、薄着だったり、肌を出してアスピオの街中を歩くと冷えてしまうぐらいである。現に少々薄着の格好であるリナリアは、足元から這い上がって来る様に冷えるこの環境にその身を震わせて腕を何度か擦った。
帝国直属の施設が設置されたこの街は軍事機密を守り、情報漏洩を防ぐ為に帝国の騎士に見張られて一般人の通行を制限されており、この街に入るには帝国から発行される通行許可証が必要とされている。まあ、帝国の一騎士であるフレンとその正式な同行者であるリナリアには直接関係のない事ではあるのだが。
魔導士を探しにアスピオへやって来たフレン一行。協力要請の為にアスピオの街へ消えて行ったフレンを待つべく、アスピオ入り口にてソディアとリナリアは待機していたのだが。その途中で彼女たちは不穏な噂を耳にしていた。アスピオを稀に出入りする魔導士たち、入り口を見張る騎士たちもその噂を口にしている。
──なんでも、アスピオから更に東にあるシャイコス遺跡にて盗賊団が現れたらしいのだ。
ソディアとリナリアが顔を見合わせている間にフレンがアスピオの街から戻って来た。ソディアが背を正し、彼に向けて敬礼する。
「フレン隊長。
魔導器を直してくれそうな魔導士は見つかりましたか」
「ああ。断られてしまった魔導士もいたが…彼にお願いしようと思って」
そう言った彼の背後から、ひょっこりと。随分と小柄な少年が姿を見せた。少し大きめのゆったりとしたローブを身に纏い、背丈よりも大きな杖を背に背負っている。丸い頭の天辺に一本アホ毛を跳ねさせ、眼鏡を掛けたその少年がフレンが見出したと言う魔導士らしい。
「どうも、僕はウィチルと言います。フレン隊長の協力要請、ひいては帝国の協力要請に応じ、帝国直属の魔導士として今回フレン隊長に同行することになりました」
「成程、彼が……。私はフレン隊所属のソディアだ」
「私はリナリア。リナリア・エルザース。帝国の騎士ってわけじゃないんだけど、ヒーラーとして今回の巡礼に同行してます」
「……あなたが」
「うん?」
「ああ、いえ。……何でもありません」
ウィチルは眼鏡を押し上げながらリナリアからそっと視線を外した。その姿を不思議に思いながらも、特に追求することもなくリナリアは再びフレンへ視線を戻した。
「それで、さっきソディアたちが話していた遺跡荒らしと言うのは?」
「私たちも噂で聞いた話なんだけど、なんでも…シャイコス遺跡で盗掘騒ぎがあったらしいの」
「盗掘騒ぎ……?」
「
魔核泥棒だって」
「ああ、それ。僕がいた研究所内でも話題になってましたよ。けれど…地上の遺跡の発掘はもうあらかた終わっているはずなんです」
「……
魔核の発掘は終わってるのに盗掘騒ぎ?おかしくない?」
「最近になって地下への入り口が発見されたんですよ。でもこれ、まだ一部の魔導士にしか知らされていない筈なんです」
フレンはウィチルの言葉を聞くと、顎に指を当てて小さく唸った。何故、こうも行く先々で何かしらトラブルが飛び込んで来るのか。騎士の巡礼でまず向かったハルルの街では結界が壊れると言う事態に見舞われ、結界を直す魔導士を探しにアスピオへ訪れれば盗掘騒ぎの噂を耳にし。次は一体どんなトラブルがやって来るのかとリナリアはもはや思わざるを得なかった。
「……この騒ぎだ。のこのこと遺跡にまた現れるほど犯人も馬鹿ではないだろうが…どちらにせよ、ウィチルを連れてハルルには戻らなければならなかったんだ、シャイコス遺跡にも赴いてみよう。手掛かり程度なら見付かるかもしれない」