「魔神剣!」
「弾けろ、集約せし力!エナジーブラスト!」

地面を這う衝撃波と収束した力の小規模な爆発がが小型の魔物二匹を襲う。
現在フレンとリナリアは、奥へ進むにつれ数が多くなり始めた魔物と背中合わせに対峙していた。しかし、数が多いと言ってもオタオタやバット程度のそれほど強くはない、雑魚の魔物ばかりである。日々鍛錬を積み、死線を潜り抜けてきた二人にとっていずれも脅威にはなり得なかった。
「よーし、完全勝利!」
「お疲れ、リナリア」
「フレンもね」
周辺の魔物はあらかた一掃した二人。抜いていた剣を鞘に収めながらお互いに労いの言葉を投げ掛ける。いくら雑魚の魔物が相手だからと言えど戦闘中はやはり気も張り詰めるのか、リナリアは脱力と共に盛大に溜息を吐き出した。
「疲れたかい?」
「んーん、ちょっと気が抜けただけ。……それよりも、疲れてるのはフレンの方じゃない?」
「何故?僕は日頃から鍛えているからこの程度じゃ……」
「そうじゃなくて!精神的に、って言うのかな。……ここ最近ずっと気張ってるでしょ」
「それ、は……」
「部下の前だから、って言うのもあるんだろうけど……一番の懸念はヨーデル殿下」
真っ直ぐにフレンを見据えるリナリアの視線から逃れる様に彼は俯いた。矢継ぎ早に紡がれるリナリアの言葉に大きなリアクションも示さない。ひたすら続くフレンの沈黙は、リナリアの言葉が全て図星であると言うことを暗に語っていた。

──現在では廃れつつある騎士団の古くからの風習、通称"騎士の巡礼"。その習わしに則って各地で善行を積むべく、巡礼を始めたフレン達であったが、あくまでそれは建前に過ぎなかったのである。
騎士団から推薦されている次期皇帝候補──ヨーデル・アルギュロス・ヒュラッセイン。帝国内の次期皇帝継承争いの最中、実質敵対している様な存在である評議会内で企てられた謀略に巻き込まれたのだろう、突如として行方を眩ませてしまったヨーデルの手掛かりを得るべく、騎士の巡礼と言う風習を名目に、フレン達は帝国を離れたのである。

ヨーデルの安否が未だに分からない以上、ただでさえ生真面目で融通の利かないフレンには心労ばかりが募っていることだろう。フレンはその後も暫く沈黙を貫いていたが、やがて諦めた様に眉を下げて小さく笑って息を吐いた。

「……昔から、リナリアには全部お見通しだね」
「フレンが分かりやすいだけでしょ」
「はは、……リナリア的には、どうなんだ?その…騎士団と評議会の、……と言うより、次期皇帝争いについて」
「……私は……アレクセイおじさまの手前、騎士団を、ヨーデル殿下を擁立してるけど、実際はどっちが皇帝になろうが別にどうでも良いの。だって皇帝になろうがならなかろうが、私にとっての殿下も姫様も変わらないもん」
「──リナリアらしいね、それ。……そんな真っ直ぐな君だからこそ、……僕は」
フレンは何かを言おうとしたが、結局言葉を淀ませてそれ以上言葉を続けるのを、やめた。この話はここで打ち切りだ、と言わんばかりに。珍しく歯切れの悪いフレンの態度を怪訝な面持ちで見ていたリナリアであったが、どれだけ視線を送ろうと彼はそれ以上口を割りそうになかったのか、やがて諦めた様に肩を竦めた。
「フレンは一人で抱えすぎなんだって!もっと周りを──わっ!?」
「リナリア!?」
その最中、完全にフレンとの会話に意識が向かっていたことと、魔物を倒しきったことで気が緩んでいたのか、足元が疎かになっていたリナリアは思い切り何かに躓き勢い良くつんのめった。驚きに声を上げたフレンだったが、間一髪彼女の小柄な体躯を腕で抱き留めることでリナリアが顔面から地面に転がる、なんて最悪な事態は免れることが出来た。
「……リナリア……!」
「ご、ごめんって!わざとじゃないんだってば……あれ?この魔導器ブラスティア……魔核コアがない」
「リナリアが躓いたのは魔導器ブラスティアだったのか……。そう言えばさっき見かけた魔導器ブラスティアにも魔核コアは無かったな」
「遺跡荒らしのせい?」
「けれど、魔核コアも筐体も完璧な魔導器ブラスティアはそうそう見つからないって聞いたことがある」
「じゃあ元から無いのか、盗られたから無いのか分からないんだ……」
「……これ以上は僕達だけでもどうにもならないな。一度戻って別の隊に協力を仰ごう。ソディアとウィチルをこれ以上待たせるわけにもいかないし、ハルルの街も一刻を争うしね」
「……そう、だね。私達以外に人の気配もないし……。結局それ使わなかったね。ソーサラーリングだっけ」
「ああ、確かに。ちょっと残念だな」
「試しに撃ってみない?」
「無駄打ちじゃないか、ダメだ」
「ちょっとだけ!ね?」
「……だーめーだ」
「けち!」
フレンが手に持っているソーサラーリングを奪おうとリナリアはこっそりと手を伸ばしてみるが、当然すぐにそれを察されリングを持っている手を高く掲げられてしまった。背伸びをして取ろうともがいてみるものの180センチもあるフレンが伸ばした腕に届くはずもなく。すぐに諦めてしまったリナリアは不満そうに眉根を潜めてずんずんと一人で先に来た道を戻って行った。
そんな子供じみた行動を取った彼女の背中を眺めていたフレンは思わずぶはっ、と噴き出し、ゆっくりとリナリアの後を追ったのだった。
「一人で行くとまた転ぶよ、リナリア。」
「うるさい!もう転ばないから!」