「う、嘘……!」
「ハルルの結界が、直ってる……!?」
「まだ満開の時期ではないはずなのに、あんなに花が咲いているなんて……!」
シャイコス遺跡を早々に発ったフレン達はその足でハルルの街へ再び赴く事になった。ハルルの結界が壊れてしまっている以上、魔物がまたいつ街を襲うか分からない。騎士団からの増援が到着しているかどうかも確認しなければならない。足早にハルルの街へと到着したフレン一行であった、が──なんと、ハルルの街の壊れた結界はものの見事に直されており、街中央に聳えるハルルの木には桃色の花が見事に咲き誇っていた。
ウィチルは研究者としての血が騒いだのか、慌ててハルルの樹の元へ走っていく。それに気付いたソディアはその後を追い掛けて行った。それと擦れ違う様にして村長が家から現れる。
「おお、騎士様がた。戻って参られましたか。ご覧ください、あのハルルの樹を!」
「い、今完全に見えてますけど……あれ、どうしたんですか?私達が離れている間に一体何が……」
「街に訪れた旅のお方が直してくれたのですよ。あのお嬢さん自身が持った治癒術……なのでしょうかな、あれは。何にせよ、不思議な力であっと言う間に満開に」
「治癒の……」
「そうそう、その旅のお方は騎士様を探しておりましたぞ。先ほどハルルを発たれてしまったのですが」
「僕を?」
「ええ。長い黒髪の青年と、桃色の髪の気品ある少女と、大きな鞄の提げた少年が」
「長い黒髪の青年……桃色の髪の少女……ま、まさかな……」
「おじいさま、その旅の人達はどこへ?」
「樹を直した後に騎士様達が東に行ったと聞いて、慌てた様に出て行きましたな」
*
満開の時期でもないのに立派に花が咲いて街を結界で包み守っているハルルの樹──ウィチルのハルルの樹の調査が終わるまで街を発つ事が出来ないフレンとリナリアは街の中を巡回しながら先ほどの村長の言葉を思い返していた。
「……長い黒髪の青年で、フレンの知り合いってさ……まさか、ユーリ?」
「僕もその特徴が当て嵌まる知り合いがそれしか思い当たらない……」
「桃色の髪の少女は……姫様?」
「そうしたら、何でユーリとエステリーゼ様が一緒に居るんだって話になるじゃないか。……や、やめないか?この話……」
「そ、そうだね……あはは……」
フレンとリナリアは乾いた笑い声を上げた。正直、もしこれが真実であれば笑い事ではなくなってしまう。
「フレン殿!」
「……ルブラン隊長。隊まで率いて……どうしてここへ?」
「我々はユーリ・ローウェルを追い掛けてここまで来たのです」
後にフレンはこの時の事をこう語る──ルブランの口からユーリの名前が出た瞬間に、嫌な予感が全身を駆け巡ったのだと。
「ゆ、ユーリを?何故?」
「おや、まだご存知ないのですか。ユーリ・ローウェルに手配書が出回っている事を」
「──手配書!?えっ、どういうこと!?」
「これはこれはリナリア嬢!そうか、巡礼ともなれば貴方もご一緒でしょうな。お久し振りでございます」
「うん、結構久し振りだよね……って、そうじゃない!ユーリが賞金首って……どうして!?」
フレンに手渡されたユーリの手配書を後ろから覗き込みながらリナリアは声を荒げた。ルブランとの久々の再会は嬉しいが、今は喜んでいる場合では無い。手配書に描かれたユーリの似顔絵は似ても似つかないが特徴は確かに捉えている。この手配書は、間違いなくユーリ・ローウェルのそれだ。
「公務の妨害、脱獄、不法侵入、極めつけは姫様の誘拐……他にも様々な罪が重なった結果がこれであーる」
「……ひ、姫様の誘拐……じゃあ、さっきおじいさまが言ってた桃色の髪の少女ってやっぱり……」
結局、フレンと先程まで話していた通りの結果になってしまった。村長の言う"旅のお方"とはユーリとエステリーゼ(+少年)の事だったのだ。
恐る恐る、と言わんばかりにリナリアはフレンの様子を伺うと、そんな彼は明らかに"無"の表情を浮かべていた。怒りを滲ませるでも無く、ひたすらに、無。フレンのこんな表情は滅多に見れない──どころか、リナリア自身が見るのは初めての表情かも知れない。思わずぞわりと、彼女の背筋に悪寒が走った。フレンにも、こういう顔が出来るのか。
「フレン隊長ー!ハルルの樹の調査が終わっ……どうかしたんですか?」
「ああ、いや。何でもない。どうだった?」
「やはり、何も異常はない──どころか、今まで以上に結界も安定しています。一体何があったのか……非常に興味深いですね」
「そうか。特に何もないのなら今はそれで良いだろう。……僕、……私達もそろそろ発とう」
「ユ、ユーリ達は待たなくて良いの?」
「今は待つ時間も惜しい。村長さんに手紙を残していくから、もし本当に何か大事な用があるのならユーリ達には僕達の後を追い掛けて来てもらう」
力を込めすぎて皺が入ってしまったユーリの手配書を胸元にしまったフレンはユーリ達が戻るまで滞在し続ける様子のルブラン達に軽く頭を下げてから踵を返した。
──ユーリが下町からようやく出て来たことは素直に嬉しいが、こんな結果は望んじゃいない。
フレンは失意や闘志の入り混じった複雑な感情をその瞳に宿していた。
その一方で──
「……姫様の持つ治癒の力、か」
リナリア自身もまた、ハルルの樹を治したという治癒術の話を聞いて何か思うところがあったのか、自らの掌に視線を落としながらぽつり、と。人知れず溜息を吐き出した。