扉が開くと同時に噂の片割れでもある青年は、一直線にチマの元へと向かい、僅かに微笑んでみせた。

「チマ、ただいま」

「おかえりなさい。ティン、彼方の席が空いていますよ」


チマのあしらい方はといえば大概慣れたもので、一見人当たりのいい笑みを浮かべながらさりげなくサリアルの隣へ腰を下ろすように勧めた。

ティンは一瞬悩んで見せるも、素直に指示通りの席へ腰を下ろし、もはやミーティングなのか、茶会なのかわからぬものに混じってくる。

「なー、ティン。今日エリオットと一緒だったんだよな?どうだった?」

向かいへティンが席につくと同時に、ユハルは気になって仕方なかった事を尋ねると

「どうって?何がだ?」

と、茶を注ぐチマを見つめつつ、僅かに首を傾げるのみだ。

「戦い方とか、実力とか。ほら、特殊部隊の増員なんて初めてだろ?」

隊長であるルヴィンが認め、何回か無事に戦闘から戻って来てる事からある程度の実力は予想されたが、詳細が気になっていたのだ。
正直マイファとはまた違った意味で俗世離れしたティンならまともな返事は期待できないと分かっていても、少しでも何か知りたかった。

「サリアルやマイファと似たような力だ。弱くないが制御が下手だ」

テーブル中央のクッキーへと手を伸ばしつつ、手短に告げられた答えは予想外にまともだった。

「へー、そうなんだ。それより今度入った用務員がさー」

「お前は一緒のシフトになった事あんだろーが!あと用務員どうでもいいだろっ!」

なのに、突然よくわからない話しでマイファに水を差されついつい突っ込まずにはいられないユハルだった。

「自然減少を操るって事?」

「炎だ。あと直接攻撃への防御が苦手みたいだ」

両手でカップを抱えたまま小首を傾げるサリアルの質問に、的確に答えるティン。
全くと言っていいほど、観察眼に期待していなかったが、流石の戦闘馬鹿といったところだろうか。

「あー、じゃあ俺と得手不得手、全くの逆だわ」

ユハル自身、飛び道具や武器攻撃は得意としているし、直接攻撃への防御は下手ではないと思う。反面魔力を用いる攻撃はひたすら避ける以外の対処法を持たないのであった。

「ユハルは避けるのも下手だしな」

「俺は素早い方なんだよ!お前らがチートなの」

何せ、此処にいる連中とくれば、水遣いだの風遣いだの、魔獣だの魔法防御も直接防御もやたらと高いのである。

そうユハルが心中で毒づいた時、エリオットが気になる理由に思い当たった。戦闘員なのに、「人間」だから。自分と同じくー、そして年もかなり近いとあれば気になるのも道理である。


「まあ、風も水も広範囲の防御には向いてそうですし、ティンは頑丈ですしね」

「あー、かなり頑丈だよな。つーか鈍そう」


ユハルの言葉を後押ししながらさりげなくティンをこき下ろすチマの毒舌にもめげず、機嫌良く紅茶を飲むティンの隣で

「そんな事はないと思うけど…。明日、エリオットと一緒のシフトなんだけど、炎遣いなら性質真逆だよね?大丈夫かな?」

不安げに視線をテーブルへと落としながら呟くサリアル。

「あー、打ち消しあうかもって?んー、距離とって同じ敵へ向けなきゃイケるんじゃね?俺も一緒だし、なんかあったらフォローするって」


よく考えば、反対の性質を持った隊員の入隊も共闘も初めてなのだ、心配するのも無理がないかもしれない。
エリオットの実力を自らの目で見たわけでは無かったが、ティンが足手まといだと言わないのならそれなりに使えたのだと判断したユハルは軽く流した。


「んー。こればっかりはやってみないとわからないね。それでね、こないだ入った…」

「いい話かと思ったら。だから、こないだ入った用務員どうでいいって!」

何故かやたらと用務員を気にするマイファに突っ込むと同時に再びドアが開いた。


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