夕焼けキネマ

 どっさりと買い込んだあれやこれやの紙袋がオープンカフェの一席を占領している。
 冷えた風と甘ったるいコーヒーがいやに心地いい。随分と当たり前のようになったものだ。
 一日付き合わせた連れは心情の読み取りにくい能面で街並みのどこぞを眺める。
 自分たちの住む“本来いるべき世界”には心地いい風も軒並みの店舗もおしゃれなカフェも、そして眩しい日の光もない。
 カップの向こうから瞳の中に突き刺さってくる傾いたオレンジ色に思わず顔を顰める。
「この光って切なくなるよねえ」
 脈絡なく呟けば連れは訝しげに振り向く。
「人だけが手に入れたものなんだとしたらやっぱり人間ってセンチメンタルだ」
  説明するでもなく無視するでもなく胸に浮かび上がった言葉を口に乗せてあとはコーヒーの温もりで濁した。そんな気まぐれな言動など慣れっこな連れは小さく嘆息して、
「しかし人間ごっこも悪くない」
 思いの外的確な返答をくれたものだから笑ってしまった。
 オレンジの光に目を細めながら。

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