いちごタルト崩壊
俺は昔から欲張りでもっともっとたくさん詰め込みたくなって、もっともっと高く積みたくなって、欲張りすぎて収まりきらなくなって大事なものがゴロゴロ転がり落ちていくんだ。
「……急に語り始めたぞ、どうしたこいつ」
「そういうことは心の中で思うものだと思います」
真面目切った顔で独り言ちた俺に鋭い突込みが入る。
もはや幼馴染と言って差し支えない関係の隊長殿とこの俺軍医様。基地のカフェでまったりおやつの最中なのである。
いちごぎっしりなタルトを前にしてなぜだかノスタルジックな気分になったものだからポエムチックなセリフが口から転がり落ちたわけで。ついでにかぶりつく前のタルトからいちごも転がり落ちたわけで。
「これは大事、これは捨てられない、大事大事大事ってなってゲシュタルト崩壊ならぬいちごタルト崩壊なのです」
「微妙にうまいことを」
落ちたいちごをタルトの上に戻してみるが再び転がる。
大口でかぶりつくともっと転がり落ちる。
大事なものというのは結局救い上げられないものなのかもなあと思っていれば横からフォークが伸びてくる。ぶっすりいちごを突き刺し隊長殿の口に消えていった。
「落ちたら後から拾えばいいだろ。あーうまい」
「なんてこった、楽しみを奪われた!」
「崩壊の絶望から救ってやったのさ。俺がもらってやったことで大事なものが一つ減って転がり落ちる悲しみも減っただろ」
「ぎゃふんという気持ちです」
結局のところ。どれだけ転がり落ちたところで欲張ることはやめられないわけで。
再び狙ってくるフォークをかわすように残りのいちごを急いで頬張るのだ。