二人で縁側に腰掛けて言葉を交わす。任務でほとんど屋敷には居ない夫との貴重な時間。お茶とお菓子を用意して、二人でそれを食べながら話しに花を咲かす。

私ばかり話をしてしまうのだけど、杏寿郎さんは私が話す事が嬉しいと言ってくれた。屋敷に居られないからこそ私の日々の事が気になるのだと言って微笑んでくれたのだ。


「今日はいつ頃出られますか?」

「夕暮れの申の刻辺りには出ようと思う」

「さようで。でしたら少し早めの夕餉をご用意しましょう」

「それでは君が辛いだろう。夜に腹が鳴るぞ」

「大丈夫です。杏寿郎さんとお食事が出来るのであれば。それが何よりです」

「そうか。手間をかける」

「お気になさらずに。あ、お茶淹れ直しますね」


すっかり飲み干してしまった湯飲み。おかわりを、と立ち上がろうとした私を「ああ、いや待ってくれ」と引き止められて再び腰を下ろした。何かと首を傾げると杏寿郎さんは私と彼の間にあったお盆を後ろへと押しやり、ぽんと隣を叩いた。


「おいで」


その言葉にドキリと胸が鳴る。

照れ隠しで意味もなく手櫛で前髪を整えると、先程までお盆が置かれていた場所にいそいそと身を寄せた。少しだけ近くなった距離。見上げると彼の目は真っ直ぐ空を見ていてその精悍さに見惚れてしまう。


「うん?」

「いっ、いえ」


不意に瞳がこちらに向き、慌てて逸らす。


「あ、あの…何かありましたか?」

「いいや。ただなまえに隣にきて欲しかっただけだ」


さも当たり前のように告げられた言葉に幸せを噛み締める。愛されている。想われている。こんなに幸せなことはない。鬼狩りである杏寿郎さんはほとんど屋敷に居ないが、それでもこうして一緒に過ごせる時間は真っ直ぐに私の事を見てくれるのだ。

これを幸福と呼ばず何と呼ぶのか。


「…、」


また横顔を見上げそっと目を逸らした。

どきどきとした胸の内でやりたい事が一つ思い浮かぶ。いいかしら?いいかしら?なんて自答自問を繰り返したあと意を決すると、大きく逞しい夫の肩に自分の頭をぽふと乗せてみた。

自分でやっておきながら恥ずかしい。顔がじわじわと熱くなる。そんな私に気付いたのかくすくすと小さく微笑む声。


「何だ?」


彼はそう言うと肩に乗せた私の頭にまるで返すように自分の頭を乗せてきた。コツンと軽く当たった頭にまた幸福を噛み締める。


「……なんでも、ございません」

「何でもないと言う顔ではないな」

「それは杏寿郎さんの気のせいでは?」


照れ隠しにもならない言葉。彼が「ただ隣にきて欲しかった」と言うように。私もただ杏寿郎さんに触れたくなっただけ。ただそれだけなのだけど、やはり言葉にするのは恥ずかしい。


「言わないと退いてやらないぞ」

「もう、杏寿郎さんってば…ふふっ」


頭で頭をウリウリと撫でられ、つい笑みをこぼす。痛くないように力加減をしているのが彼の優しさだ。


「杏寿郎さんの髪が乱れてしまいますよ」

「それなら君に結ってもらおう。君の髪は俺が梳かそう」


お互いにくすくすと微笑んで。この僅かな時間に与えてもらえる幸福を逃がさないようにと、私は肩に頭を乗せたまま彼の腕に自分の腕を絡めるのだった。



ちる



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炎柱には太陽の下で幸福になって頂きたい

2022.03.21



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