夢を見た。
幼い頃の、一番古い記憶の夢を。
刺す様に寒くて薄暗い部屋の、硬いベッドの上で凍えない様に抱き合って眠っていたあの頃の夢。
まだ、彼の紅い瞳の奥に深い闇が在った頃の、ふたりきりの世界を生きていた頃の夢。

それは悪夢の様で、それでもとても、甘かった。



(硬く手を繋ぎ合った)
(離してしまえば君を失ってしまいそうで)
(こわかった)



『はじめまして、リン・ヒムロです。えぇと…』
『 ─── リドル』
『、りどる、くん。よろ、しく』


そうだ、初めて顔を合わせたのは雪の降る寒い夜だった。ふたりとも、3歳の時。分厚い本を読んでいた、視線をほんのすこし投げただけでぶっきらぼうに挨拶したリドル。あの頃はまだ、言葉があまり解らなかった。

『……英語、解らないの?東洋人?』
『 ── うん、あんまり、わからない。にほんじんだから』
『へぇ。僕と同じ部屋って事は、君も変わっているのかな』
『えぇ、と……うん、たぶん。せんせいは、こわい、がってた』
『怖がってた、ね。もしかして僕と同じ?』
『 ─── うん』


頷いて、指先から花を出して見せた私を見たリドルの驚いた顔は、きっと一生忘れる事はないと思う。黒がかった紅い瞳をこれでもかってほど見開いて、そしてとても嬉しそうに笑ったあの時の事は。

『君も、使えるんだね』
『だから、きもち…わるい?って』
『あいつらは、馬鹿なんだ。それは特別な事なんだよ。』
『とく…べつ?すごい、こと、』
『そう。ねぇリン、僕達仲良くなれそうだね』
『、うん、そうだね、りどるくん』


同じだと解れば途端に消えた境界線。思えば私がリドルと同程度の魔力(つまり、年齢不相応な途轍もないもの)を持っていた事が、その決定打だと思う。
リドルと並べる、隣に置く価値のあるモノ。
あの一瞬で、きっとリドルは私をそう判断したんだと思う。それでも、私にとっては大きな第一歩だった。

『………あいつらは、馬鹿なんだ』
『うん』
『僕も、リンも、特別だ。だってあいつらにはできない事が出来る』
『うん』
『いつか……いつか、こんなところ出て行ってやる』
『……』
『そんな顔しなくてもリンも連れて行くに決まってるだろ?僕と同じ、「トクベツ」なんだから』
『、うん』


誰も来ない裏庭の、枯れかけたイチョウの木の下。そこは私とリドルの箱庭だった。他の子たちは表の小さな公園にいて、裏庭は薄暗くいつだってじめじめとしていたから、近寄る子はいなかった。だから、私とリドルだけの場所だった。イチョウの木の下で、何度も同じ事を繰り返した。まるで呪う様に、あるいは自分自身に摺り込む様に、リドルは私の手を握ったまま泣いていた。トクベツだと、あいつらとは違うと。ヘタな事が言えない私は、ただリドルの手を握り返す事しかできなかったけれど。

『魔法使い、だって』
『……うん』
『僕も、リンも、魔法使いだって』
『ホグワーツ魔法魔術学校。行くのよね?』
『当たり前だろ。これで、ちゃんと学べるんだ』
『そうだね。ねぇリドル、楽しみだね』
『ああ』


そうして私達が11才になった夏。ダンブルドアが訪ねて来た。手を繋ぎ合う私達を見て驚いた様に目を見開いた直後、笑った彼は、私とリドルにそれぞれ封筒を差し出した。
魔法使いだと、君らが使っているそれは魔法だと。
そう告げられた時のリドルの紅い瞳は、確かに煌めいていた。

『杖、すごいね』
『あぁ。イチイの木に不死鳥の尾羽根だって』
『私のは、桜の木にドラゴンの心臓の琴線、だって。ほんとにいるんだね、どっちも』
『魔法の世界だから、いてもおかしくないけどね』
『うん』
『サクラか。リンは日本人だからかな』
『そうかもね。でも、すごい精神力?を持ってないとダメな組み合わせなんだって。』
『選ばれたんだから、使えるだろ?』
『うん。がんばるよ』


やっぱり同じ杖なのか、と、リドルの杖を最初に見た感想はそれだった。私の杖は桜にドラゴンの心臓の琴線、大分おぼろげにはなったけれど、この組み合わせの杖は並外れた精神力を持つ者にしか扱えないのではなかったか、まぁこの杖に選ばれたのだから大丈夫だろう、と、そう思った事もよく覚えている。(それも、ホグワーツで学ぶ内に私の魔力もやはりずば抜けて高い事、杖は私の思うとおりになる事も含めて、もしかしてこれってトリップ特典とかいうやつではと思った事も。)

『ふーむ……実に難しい。信念を貫き通す勇気もあれば、勤勉な一面もある。かと思えば、何をしてでも目的を達したいという狡猾さや非情さも持ちあわせておる……実に、難しい』
『………選ばせてはもらえない?どうしても行きたい寮があるの』
『ふむ。言ってみなさい。私にはどうも選べそうにない』
『スリザリンへ。私が一緒に居たい子も、きっとそこだから』
『……君はマグルの生まれだろうに、つらい思いをしてしまうかもしれんぞ』
『いいよ。それよりも離れてることの方が辛いから』
『ふむ。ならばいいだろう ─── スリザリン!!!』


そして迎えた入学の日。
リドルはその血縁が故にスリザリンだと最初から知っていた私は、どこを宣言されようとスリザリンに入りたいと言い続けるつもりだったのだが、いわゆる組み分け困難者だった。まぁ仕方ないだろう、どれも実際あたっているわけなのだし。それならば私が行くべきはスリザリン。リドルと離れたくはなかった。リドルは『リンはレイブンクローかもしれないね』と、ホグワーツのパンフレットの様な冊子を読みながら言っていたけれど。もとより離れるつもりなんてないのだ、一生を寄り添って生きると決めた、闇の帝王なんかには成らせないと決めたのだから。



とある日々の追憶 1
(リドル・トム!)
( ─── スリザリン!!!)



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彼女がリドルと出会ってからの約60年。
飛び飛びの追憶形式に少しだけ。

夢を見てる彼女の話なので、飛び飛びな上に割とわやわや。
たぶん3か4まで続きもの

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