何度同じ時を繰り返していようと、慣れないものはある、と黒曜石は溜め息を吐いた。
闇の魔術に対する防衛術講師が、目下のところ黒曜石を悩ませる頭痛のタネとなっていた。それもそうだろう、そもそも彼女の理想とする男性像はあれと正反対なのだ。そんな男が、ホグワーツ始まって以来の天才児と言われる黒曜石に目を付けたと言う事は、彼女にとっては災難以外の何物でもない。同級生には羨ましがられるが、ならば頼むからこの立場を変わってくれと声を大にして叫びたい気分だった。嫌悪すると言っていいほど苦手なタイプの男に言い寄られる事を嬉しく思える女はいないだろう。

「どうしたのよ、リン?元気ないわよ」
「……私、あの人苦手なのよ。ロックハート。」

朝食の席でげんなりとした顔をしてココアを啜る黒曜石に、パンジーは眉を顰めて問い掛けた。今日は朝一番で防衛術の授業があるとあって、スリザリンでもグリフィンドールでも、女生徒たちは身嗜みを整える事に必死だった。黒曜石には、そんな彼女達の感性であったり神経であったりが、幾度同じことを繰り返そうとも、理解が出来なかった。自分でも覚えていないほどの長い時間を、闇色だけを想って生きて来たということ差し置いても。

「…………あんたの感性、ほんとわかんないわ。そりゃスネイプ教授は素晴らしい魔法薬学の先生だとは思うけど、」
「私にはパンジーたちの感性の方が理解し難いわ……」
「だって、すごいのよ?あんたあの人の著書読んだ?」
「虚実と妄想だらけのくだらない本を読むなら上級魔法薬学を読むわ。自身の功績をひけらかすのは莫迦のする事よ」
「なんてこというのよ!」

だって彼女は「知っている」のだ。
彼の著書が全て他人の功績を横取りしたものだということ、忘却術に関してだけは飛び抜けて巧いことを。
だからと言って、それに関して何を言うつもりもない。そもそもが敷かれたレールとも言える物語の筋書きを崩すことはよくないのだと、今までの経験で彼女は知っていたからだ。だからなおさら、関わることをしないように、ひたすら目立たずに過ごす他、あのいけ好かない教師をやり過ごす方法はなかった。

「本当なら、なんでピクシー妖精さえ手玉に取れなかったのか疑問だわ」
「あれは……実地学習だったのよ、実際、退治させてくれたんだわ」
「そうかしら」

だからと言って、彼に陶酔している同級の友人達にどうこう言うことも、またしなかった。恋は盲目とは言うけれど、今の彼女たちはまさにそれだろうと解っている。そもそも、自分とて盲目なまでの想いを貫いて此処に居るのだから。

「あんたの好みって、ロックハート教授の正反対よね」
「そうね。理想はスネイプ教授だもの」
「……それもどうかと思うわ」
「理解出来ないのはお互い様よ。あれでも教師だもの、一応の礼儀は払うわよ……ほら、授業始まるわ」
「……そうね。そういうことにしときましょ」

これ以上は堂々巡りだろうと、黒曜石は無理矢理に話題を打ち切って席を立った。姦しい声を上げて追いかけてくる友人に黒曜石は苦笑いを漏らし、これも何度目だろうかと溜め息を飲み込み、教師席を振り返る。相変わらず闇色は眉間に皺を寄せていた。

(……教授、聞いてた?)

たしかに一瞬、目が合った気がしたのだが。早々に逸らされてしまった視線に疑問符を浮かべながら、パンジーに手を引かれ、黒曜石は大広間を出て行った。



闇色に滲む
(想いはいつまでも変わらない)
(愛する人は、貴方だけ)



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で、このあと決闘クラブで吹き飛ばされたロックハートに内心大爆笑。
正反対すぎて生理的嫌悪感さえ持ってそうだなとかそういうアレ

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