「……どこだろ」

必要の部屋と呼ばれる場所が、ホグワーツにはある。
そこは本当にその場所を必要とする者にのみその扉を開く、あったりなかったり部屋とも言われる魔法の部屋。通い始めて数日が経つが、未だにそれを発見できてはいなかった。隠すための部屋、なのだから、そう簡単に見つかる訳もないと初めから思ってはいたが。それにしたって、この部屋の広さと言ったら大広間の数倍はあるだろう。そんな広さの部屋に雑然と、こんもりと、大量のガラクタや宝物やらが積まれているのだから、彼女は半ばげんなりとしながらも溜息を吐いて捜索を再開した。

「えーっと……どのへんだろう、要するに映画と同じような場所を探せば…いいんだけどな…どこも同じだよねこれ……無理ゲーな気がしてきた……前の時は開いた瞬間展示品みたいにどーんと置いてあったくせに、今回またこのパターンか……!」

彼女が今欲しいもの、それはつい先日までハリーが手にしていた「半純血のプリンス」の教科書であった。いわゆる、彼女がもともと生きていた世界における、スネイプファン垂涎の品である。
『あれ欲しがらないとかマジ無理』とは、彼女の言い分だ。
そもそも、その隠し場所自体が定まってはいない。ある時は戸棚の中に、ある時はドアを開けたらその本だけが置かれた部屋だったり、または上から落ちてきたりと、非常にバラエティに富んだパターンで、彼女の手中へとやってくる。それもまぁ、アトラクションのようだと思えば、楽しみといえば楽しみなのだが。

「スネイプ教授が愛用してた教科書…絶対見つける」

半ば、意地である。隠すための部屋で何かを探す、というのは、矛盾しているし不可能な気がしないでもない。だが、彼女には『不可能を可能にする』幸運を導くアイテムがあった。
いわずもがな、幸運の液体と呼ばれるそれである。
今年度最初の魔法薬学の授業でひと悶着の末にハリーと分け合ったそれを、今使わずいつ使うのか。恋は盲目と言うけれども、彼女の場合はもう盲目などという域にはない。狂信、あるいは狂愛とよぶのが相応しいだろう。どんなに穏やかで甘やかに見えても、その恋慕の内側は狂気と狂信と狂愛で出来ているのだから。

「今使わずにいつ使う、ってね」

ポケットに入れていた、小指程の大きさしかない小瓶を満たす黄金色に輝く液体。それを煽り、しばらく俯いていた彼女は、勢いよく顔を上げると、ある方向へ足を向けた。此処にあると彼女の直感が告げている。

「……この、扉の、その中の、そのまた中」

目の前には堆く積まれたガラクタの山。その中に見つけたのは金庫のようにも見える重厚な造りの戸棚だ。迷いなく、多重構造になった扉を開けていく。まるでマトリョーシカのように重なるそれらにイラつきながら、最後の扉を開けた奥に見えたものに、彼女はガッツポーズを決めた。

「……っあった……!教授の、直筆サイン入り!半純血のプリンスの教科書!」

語弊があるような気がしないでもないが、間違いでもないだろう。
見つけたその本を大事に抱え、近くにあったロッキングチェアーに座ると、早速開いた。

「……右上がりの鋭い筆記体……ふふ、いつでも変わらないんだなぁ……半純血のプリンス……ふふふふふ、教授かわいい」

ゆうしゃは ねんがんの きょうかしょを てにいれた!
RPGゲームならばそんなテロップが表示されていただろうか。脳内でファンファーレが鳴り響く中、にやける顔を抑えながらゆっくりと読み進めていく。
記述が線で消され、注釈のように書かれた改良版調合法。時折交じる書き損じや、らくがき。繰り返す度に手に収めてきた、宝物とも言えるもの。
それらを指でなぞり、愛おしげに目を細め、うっとりとした表情で読み進める。誰よりも愛おしい人物が愛用し、書き足した物だ、宝物以外の何だというのだろう。

「……?……『未だ見ぬ我が友へ』……?なんのこっちゃ?友???」

ただ、今までとは違うところがただひとつ。
最後のページ、背表紙の裏の下端に小さく書かれていたそれが何を意味するのか、まだ彼女は知らない。



追憶に紡ぐ慕情
(……オブシディアン?だれ?)
(………………黒曜石の、目を持つ、未だ見ぬ我が友へ?)
(…………だれのこと?)



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教授を看取る→時間を戻す時に魔力が暴走→学生時代へ、っていう生存ルートへの布石よね。
学生時代にフラグ立てとくよ!っていう言い訳。

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