クリスマス休暇中のホグワーツは、普段の賑わいを忘れた様に静まり返っていた。
聞こえる声はといえば絵画の住人達のそれで、今ホグワーツに居る「生身の人間」は片手で足りる程。誰が居ても居なくても、私の過ごす日々は揺るがないし変わらない。それだけを見つめ、繰り返し続けてきたのだから。

「教授」
「、何だ、帰らなかったのかね」
「帰る家はありませんよ。施設ももう閉鎖されたそうですし、帰るとすれば校長先生かマクゴナガル教授のお宅です」
「……閉鎖?聞いていないぞ」

まぁ、真っ赤な嘘なのだけど。確かに去年まではマクゴナガル教授の自宅に休暇中お世話になっていたけれど、流石に来年四年生に進級ともなれば、もうのんびりしている余裕などない。ただでさえ<例のあの人>が復活する年、つまり三校対抗戦の年でマクゴナガル教授も校長先生もその準備で忙しいのだから。だから私は嘘を吐くのだ。

「先日決まったそうですよ。イブに閉鎖するとかで。クリスマス休暇はホグワーツで過ごしますが次の休みは恐らくマクゴナガル教授のお宅かと。」
「……君はスリザリンだろうに。何故グリフィンドールの寮監が」
「教授は男性ですし、スピナーズエンドは治安に不安があるから無理だと校長が」
「、」

一理あるどころかそれが真理だ。現にスピナーズエンドは治安が悪く、若い女がうろついていい場所ではないし、何より寮監といえど男性、そして私が遥か昔から思い続けている人と一つ屋根の下とはとんだ罰ゲームだ。なんの我慢大会かとさえ思う。

「ですから、イースター休暇と夏休みはマクゴナガル教授のお宅にお世話になることになりました」
「そうか。くれぐれも、スリザリンの品位を貶める行いはなりませんぞ」
「心得ていますよ。貴方の評判を落とすことはしませんし出来ません」
「あぁ、ならばよい」

こうして同じ部屋で魔法薬を作っている今でさえ、心臓の鼓動は煩いくらいなのだ。それが一つ屋根の下で長期休み、そんなもの心臓やら理性やら、色々なものがもちそうにない。そして校長先生は恐らくそれを見通している。あのひとの千里眼は時々プライバシーなんて丸無視してくるから困る。(まぁそれも私の素性からすれば監視して当たり前なのだけど。わかっていても世知辛い)

「……残った生徒は君くらいだ」
「でしょうね」
「…………明日、ダイアゴン横丁へ行くが。着いてくるかね」
「……え?」
「材料が不足しそうなものがあるのでな。新学期までに揃えておかねばならぬ故、注文に行く。勉強にもなるであろう」
「っ行きます!ぜひ!」
「ならば、早々に寮に戻り休むことですな。明日は早いですぞ」
「っはい!これ片付けたら戻ります!」

とはいえ。
優秀な生徒だからという理由からでも、こうしてたまにデート(だと私は思っている。教授はただ私に知識を与えたいだけなのだと知っているけれど。これは私的には立派なデートだ)に誘ってくれるのだから、実らない片恋だって辛くはない。元より、このひとの心には永久に枯れない白百合が咲いている事を知っている。
想いが向かなくてもいい、ただこのひとを生かしたいのだという最初からの願いは変わらない。エメラルドの瞳が映す未来に、教授の姿があれば、それで、それだけで報われるのだから。
だから、今以上を望んではいけないのだ。誰より優秀な生徒として、寮監の自慢の生徒で在れるのならそれでいい。

「では教授、また明日」
「あぁ。」

──── 僅かな微笑みを、向けてもらえるのだから。
私はそれだけで、

何度でも。
何度でもやり直せるから。



amour millefeuille
(積み重ねる輪廻に愛を知った)
(最愛の記憶を糧に、私は進む)



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ブログより。
ほんとスマホでやりづらい!!!!

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