序章  



「審神者…ですか?」



あ、可愛い。咄嗟に出かけた言葉を唾と一緒に飲み込んだ。

きょとんという効果音が付きそうな表情で目を丸め、小さく傾げられた頭。肩口まで伸びた艶やかな金色の絹の様な髪が揺れ、目を奪われそうになり慌てて彼女の目を見つめ返す。

問いかけに対して「ええ、審神者です」と事務的に答えると、彼女の横で鎮座していた男性が鋭い眼光で睨みを利かせてきた。


止めてください。俺は上の指示で申請書を届けにと説明に来ただけなんですよ。


今回俺が担当になる予定の審神者には、幾つか試練が用意されている、と上司から忠告は受けていたが、幾つかの試練とは紛れもなく彼の事を言うのだろう。

あの、俺これでも新人何ですけど。何で誰も付き添いに来てくれないんですか。

初めて担当になる子には自分から勧誘に行きたいと申し出たのが運の尽きだった。きっと勧誘に行く予定であった上司はその瞬間、厄介な案件からの開放に手放しで喜んでいた事だろう。



書類上、審神者になる彼女 ―音無真白さん― には何ら問題もない。

恥ずかしがり屋で赤面症だ、なんて可愛らしいものだ。資料用に撮られた複数枚の写真を見ても愛嬌があり、他人とトラブルも無く円満に物事を進めていける人物だということが伺える。

そう、彼女自身には何ら問題もない。問題があるのは彼女の周りにいる人物だ。


音無緋月――彼が第一の関門だった。今俺が対峙している男性の事なのだが、何と言っても見た目からして印象は悪い。チャラさ全開だ。隠そうともしていない。そして口を開けば妹妹妹と言った具合の重度のシスコンらしい。ああ、妹というのは真白さんの事だ。何でも二卵性の双子何だとか。


そんなシスコンな彼は、男が妹に近付こうものなら凡る手段を用いて抹消してきた経歴を持っていた。

もう一度言わせてほしい。何で誰も付き添いに来てくれなかったんですか。確かにうちの部署男性が大半を占めていますがそれでも人選によって1人くらい付き添い出来たんじゃ無いですか?ねえ。


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