加州清光


「どっから入ってきたかって聞いても、まあ正面の門からだろうけどさ、死にたくなかったらさっさと出ていってくれない?」



出会い頭に突き付けられた刀身は太陽が反射して光が走っている。わあ、綺麗。何て呑気に感想が言える程据わった肝を持ち合わせてはいない為、手足は情けなくもガクブルに踊っていた。


どうして私がこんな目に合わなくてはいけないのか。

簡潔に纏めて言ってしまえば、時の政府なる自称未来人()が友人と遊びに出掛けていた私を「you素敵な力持ってるじゃあないですかあ!審神者やっちゃいなYo!」って言って颯爽とベテラン誘拐犯も模範したくなる様な素晴らしい動きで有無を言わせず拉致って行ったからである。

え?訳分かんない?大丈夫、私も分かってないから。てかさにわってなんだ。古墳で有名なあの埴輪のいとこか何かにあたる物なの?

疑問しか浮かばない拉致られから机に三日三晩縛り付けられ精神的ダメージを受けた上で、眼前に突き付けられた審神者誓約書なる書類へ目を通す暇も無く無理矢理サインを書かされ刀剣男士なる付喪神様を顕現どうたら説明を受け(順序逆だろ)、この門の前で捨てられた訳だが。てか私の扱いェ…

何も解決しないまま、あれよあれよと連れてこられた門の前。「此処が今日から君の本丸…お家だよ!審神者の引継まだだけど」何て誘拐犯の去り際の捨て台詞を背に、意を決して門をドンドン。暫し待てど返答無し。そっと門を開けて中に入り、冒頭である。「お邪魔しま──した」って言って門閉めればまだやり直し出来たのかな。無理かな。無理だったかな。無理だっただろうな。私の人生ハードモードだね!


取り敢えず、落ち着こうかお兄さん。艶やかな黒髪が素敵ですね!触り心地良さそう!爪は真っ赤な(少し剥がれてるけど)マニキュア付けちゃってぇ。私よりも女子力高いじゃないですかやだぁ!このオシャレさんめ!…うん、私が落ち着け。



「あ、ああああああののののの、おちゅちゅ、おちゅちゅいてててて」
「……………あんたが落ち着いたら?」



両手を上げて丸腰アピールにこのコミュ障拗らせカンスト女子並みの吃りをお見舞いすると、そっと刀を私から下ろしてくれたお兄さん。あ、そんな呆れた目で見ないで下さい。

胸に手を当てすーはーすーはーと深呼吸をし、この荒ぶる心臓を落ち着かせる。よし、これで大丈夫、今度こそ。



「ごごごごごごごごごごごごごごご」
「落ち着けよ」



落ち着けていなかったようだ。





─────────





酒場では黒歴史が酒盛り達のつまみになる。


「なーんて事もあったよねぇー」
「止めてって!止めてって私言ったのにぃぃいい!」
「はっはっは」
「しかもあの後平気で俺に本丸案内させるし」
「村人第1号には密着する!これ常識よ!」
「ん?呼んだか?」
「違う!貴方日本号!」
「何処の常識だよ」
「依早ちゃんの時代の常識かなー?ふるーい」
「古くないし!笑○らだし!」
「笑こ○って何、笑ってごらんよ?」
「それ笑ごら!あ、言っちゃった…」
「笑ってごらんよ、にっかりと」
「ひぃいっ!」
「ちょっと鶴丸さん。それ僕の台詞なんだけど」
「主さん大丈夫ですかー?」
「駄目だ、気絶してる」
「こりゃ驚きだぜ…」

<主ら、覚悟は良いか?我の可愛い依早を…よくも…っ>

「待って玉緒さん!落ち着いて!?」
「あー、もう。鶴丸さんのせいですよ?」
「おっと急用を思い出した…」
「逃がさないよ?」
「水浸しかー」
「水に濡れてたら格好つかないよね」
「いや、でも水も滴る良い男って言うけど」
「ぽじてぃぶです!」

<去ね>

「ぷきゅあ!」
「わぁ!」
「ぶっ」
「つっめたい!」
「んでしょっぱい!」
「塩水…?」
「俺に水をかけるのは写しだからか…」
「僕ら関係無いのに!」
「さあ、皆さんお風呂に行きますよ」


そうしてグダグダに落ちもなく終わる。


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