01


「あ…ひ…やっ…」



目の前で吹き飛ぶ人の臓器。そうして嘗て友人であった者たちの死は呆気なく終わりを告げた。地面に拡散する臭いに、生理的な涙が零れ落ちる。

助けを求めるため周りを見渡すが、視界に入るのは敵である彼等の姿だけで。ああ、完全に囲まれてしまっている。

自身の武器である鞘に納められた刀を胸で抱き、迫り来る彼等から後退った。じゃり、と地面を擦る音に、彼等の黒い目は一斉に私へ向いた。

がぱっと開けられた口が、妖しく爪の尖った指が、迫ってくる。



「いや、だ…死にたく…な…こ、な…」



こんな訳の分からない所で死にたくない

ガタガタと震える身体をどうすることも出来ず。立っていることもままならない足は遠に使い物になんてなってなくて。腰の抜けた身体は地面に垂直に落ちていた。

もう、駄目だ。

目を固く閉ざし、次に来るであろう痛みに死ぬ覚悟を決めた。



「囮役、ご苦労さんでした」



背後から唐突に聞こえた男の人の声。次いで響いた彼等の断末魔。近付いてくる数多の足音。

そっと目を開くと、私を取り囲んでいた彼等の姿は原型を留めては居なかった。



「…え…?」
「いやぁ、やっぱり囮役は女のコに限るわぁ。奴等ホイホイ引き連れてきてくれる」
「…囮、役?」
「ホンマは奈美江ちゃん?がしてくれる手筈やったんやけど…あの子死んでしもた?」
「なみちゃんが?だって、あの子、此処にくれば大丈夫だって言って…」
「ああ、そういうこと…。御愁傷様ぁ。君、あの子に利用されてただけやで。奈美江ちゃん、あわよくば君を盾に逃げるつもりやったんやね。いやぁ、女子の友情は儚いなぁ!」
「……っ…」



男の人は顔に貼り付けたような胡散臭い笑みを浮かべながら、私の前でしゃがみ込み顔を覗き込んできた。身体の周りに弧を描いている大きな円盤は、彼の武器だろうか。

そっと伸びてきた腕が私の頭を撫でていく。力任せに撫で栗回された頭は重力に従い下を向いた。

だって、そんな。私、いや、私たちはあの子の身代わりにされようとしていたの?だからあの子はあんなに呑気に笑っていられたの?このゲームに誘ってきたのだって、初めから、利用する為に?



「ちょっと」
「ああ、すんません。無駄話過ぎました。ほな、行きましょか」
「…!な、」



力の抜けきった身体を、男の人の力で無理矢理に立たされた。目を服の裾で擦られ、ぼやけていた視界が開く。私の頭上、屋根の上に立って鎌のような武器を持った綺麗な女の人は、無表情に視線を向けてきていた。



「…何?」
「あ…いえ、なんでも…ない…です」


何か言いたいのはそちらでは?とは返せず、女の人から視線を反らした。



「さーて、次はっと」



忌ま忌ましいゲーム機を片手に歩き出した男の人は、笑っていた。この状況を楽しんでいるかのように、口に弧を描いて、目には歓喜の色を浮かべ、笑っていた。

ぞくりと背筋が凍るような感覚に襲われ、同時に表情も凍ってしまう。今自分がどんな顔をしているのか確認することは出来ないけれど、きっと普段はしないような酷い顔をしているんだろう。表情筋が何処か痛い。



――そしてその数時間後、私は





八坂神社に居る狛犬から発せられた光線のような攻撃により胴体を切り離され、数瞬遅れて今まで受けたことも無いような痛みが全身を走った。

最後に辛うじて残った感覚で私を助け利用した男を見つめると

彼は相変わらず笑っていて、私を見下ろしながら、右手をヒラヒラと振って見せた。口は恐らく「バーイバーイ」と動いていたんだろう。

耳はキーンという甲高い音しか鳴っておらず、彼が最後に何と言っていたのか。それは憶測でしか掴めなかった。

が、これだけはハッキリと分かった。


私は










死んだ。――


ブツン。
記憶はそこで一度途切れる。



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