トランクス(GT)

 昨夜は遅くまで悟天との電話で盛り上がっていたせいか、トランクスが目を覚ましたのは予定していた時間をとうに過ぎてしまった頃だった。オシャレをしようと昨日は意気込んでいたがそんな時間もなく、転がるようにベッドから抜け出した後は結局いつもの装いで慌てて家を飛び出すことになった。ジャケットに腕を通しながら走って向かうのは西の都にある映画館前だ。この日、トランクスは恋人をデートに誘っていた。遅刻を咎めるような人ではないが、誘った側が遅れるなんて母や妹に知られたら「最低!」と言われること間違いなしだ。

「遅れてすみませっ──!」

 走り始めてから数分後、待ち合わせ場所に着いたトランクスは待っていた恋人に駆け寄るが、遅刻したことへの申し訳なさで頭がいっぱいだったためか足元の段差に気付かずに躓いてしまった。ここで転ぶような身体能力ではないのだが、相手との距離が近かったこともあり、足が地面に着く前にトランクスの顔は恋人の胸元へとダイブした。思わぬアクシデントに思考がストップし体が硬直する。ぶわっと香る相手の匂いに熱が顔に集中し、僅かに瞳孔が開いてしまう。

「大丈夫か?」
「す、す、すみませんっ! 大丈夫、で……す」

 声をかけられハッとしたように顔を離すが、今度はその動作をするため胸元についた手へと意識が向かってしまった。自分とは違い修行を欠かさない恋人の大胸筋は、力を入れた指先を押し返す弾力を持ちながらも柔らかい。柔らかいのだ。恋人の体に触れたことはあるがそれは手を繋いだり、頬に触れたりといった軽いもので、決して不埒なものではなかった。初めて体験する性的接触にトランクスは無意識のうちに何度もその胸を揉んでしまっていた。しかしその行為を受けている恋人はというと不思議そうに首を傾げるだけである。
 その後、なんとか正気に戻ったトランクスは予定通りデートを楽しんだ。だが両手にはずっと柔らかな感触と温もりが残っており、それは帰宅し、風呂に入り、ベッドに横になった今でも続いていた。眠ろうにもあの感触が忘れられず目は冴えるばかりだ。仕方なくサイドテーブルに置いた携帯端末を手に取り、恋愛経験豊富な親友へ助けを求めるのであった。



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