ラディッツ

 とある休日の昼下がり。トレーニングから帰ってきたラディッツは、リビングのソファで横になっている甥の姿を見つけた。どうかしたのだろうかと近寄れば、浅く繰り返す呼吸音が聞こえた。居眠りをするなんて珍しい。出会ってから十年以上も一緒にいるが、このような姿を目にするのは滅多にないことだった。眼鏡をかけ、書類を手にしたままなところをみると、どうやら休日にも関わらず仕事をしていたらしい。学業と仕事を両立しているなんてよくできた甥だとラディッツは感心するばかりだ。
 ソファの前で屈み、寝ている甥の顔を覗き込みながら眼鏡を外しやる。普段なら人が近寄ってきた気配で目を覚ますほど気に敏感な甥だが、眉を少し動かした程度で起きることはなかった。余程疲れているようだ。そもそもまだ学生の身でありながらなぜ社会人として働いているのか。その原因はラディッツ自身にある。弱い地球人の命令なんて聞けないというラディッツの申し出に対し、甥の出した策は甥自身が会社のトップに立つことだった。要は貴方より強い者の命令でなら働けますね、ということだ。実際、戦闘力は甥のほうが上であり、ラディッツが愚痴を吐くことはなくなった。
 そんな経緯があり、甥への負担はラディッツのせいであると言っても過言ではないのだ。だがラディッツはそれについて反省することはない。甥が勝手にやっていることだ。むしろ出会った時からずっと双子の弟のためばかりに生きていた甥が、ラディッツのために行動したという事実に気分が良くなったほどである。
 目元にかかった前髪を雑に払い除け、寝顔を見つめる。これだけ視線を感じれば起きるはずなのに目覚める気配はない。それほど自分に気を許しているのか、と思わず笑いが漏れた。ソファの背もたれに片手をついて、甥の寝顔に影を作ったのは数秒のことだった。



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