ラディッツとベジータ

 セルゲーム開始まで残された時間は僅か数日間。戦士たちはそれぞれ修行に励んでいた。戦闘民族であるラディッツも例に漏れず、甥とともに神の神殿にある精神と時の部屋で特訓をしていた。部屋の中で一年の時が経ったところで二人が外へ出ると、そこには待ちくたびれたと言わんばかりの表情を浮かべたベジータが仁王立ちしている。甥はそんなベジータに軽く頭を下げると後方にいる未来から来た青年へ駆け寄った。

「なぜそこまでカカロットの息子に肩入れする」
「なんだよ突然」
「同情か? 似た者同士だからな」

 ちらりと横目で甥へと視線をやったベジータの皮肉に眉を寄せる。おそらくベジータは悟飯の実力は認めていても、もう一方の子供の実力は認めていないのだろう。それだけ超サイヤ人になれるかどうかの差は大きいということだ。だからといってラディッツは甥に対して同情することはない。

「ベジータ、おまえはオレが超サイヤ人になれると思うか」
「きさまが? フン、無理だな。以前よりは強くなったのだろうが、オレやカカロットよりも戦闘力の劣るきさまでは超サイヤ人には辿り着けんだろうさ」
「ハッ! おまえならそう言うと思ったぜ。正直オレも同意見だ」

 地球へ来るまではいつも見下されていた。生まれ持った戦闘力の差は埋められないと、心のどこかで諦めていたのかもしれない。地球に居着いてからも兄である自分よりも強い弟の存在に劣等感を抱き続けてきた。なぜ自分は弱いままなのか。出会った頃は簡単に捩じ伏せることができた甥も、今では追いかけているのは自分のほうだった。しかし甥はラディッツを見下すことはなく「貴方ならもっと強くなれる」と信じているのだ。弱い奴は必要ないと切る捨てるのも厭わないサイヤ人にとってそれはある種の衝撃だった。戦闘の駒としてではなくラディッツという一人の戦士として、初めて認めてもらえたような気がした。
 精神と時の部屋で過ごしたのも二人の特訓というよりは、ラディッツが超サイヤ人になるための特訓と言ったほうが正しいだろう。甥はラディッツが壁を突破できると信じている。

「だが、あいつだけは違った。それだけだ」

 なら自分は、甥の信じるものを信じてみようと、そう思っているだけなのだ。



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