ラディッツ(サイヤ人編)

 人里離れた森の中、仕留めた獲物を引きずりながら歩くのは孫悟空の息子の一人である少年。いつもは双子の弟と行動を共にしているのだが、迫り来るサイヤ人の襲来に備えて今は別れて行動することを選んだ。弟に相談もせずに独断で決めてしまったことは反省しなければならないかもしれない。そう思いながらずるずると音をたてて獣道を進んでいくと少し開けた場所に出る。火花が時折弾ける焚き火の側にいるラディッツへと視線を向ければ、不機嫌そうに顔を逸らされた。少年は気にとめることなく引きずってきた獲物を器用に組み立てた棒に吊るして焚き火で焼き始める。お互いに無言のまま時間は過ぎてゆき、次第に香ばしい匂いが鼻をかすめ始めた。
 空腹を誘う焼けた獣肉の匂いに無意識に腹へと手を添えたラディッツは、そこにある治りきっていない傷跡を指で撫でた。確かに空いていた風穴がちゃんとした自分の肉で塞がっている。聞けば仙豆という豆を食べさせただけだと少年は言った。そして仙豆は食べ続けなければいけないことと作れるのはもう自分しか残っていないとも。それが事実なのか嘘なのかは解らない。どちらにせよ自分が生きる為には少年を殺してはまずいということがラディッツには気に食わないのだ。
 腹に手を当てて難しい顔をするラディッツの前に、ずいっと焼けた肉が迫った。差し出したのはもちろん少年だ。しかし腹が減っているはずなのになかなか受け取ろうとしない相手に首を傾げた。

「食べないとその傷、治りませんよ」
「ふんっ。きさまの持っているおかしな豆なら食ってやってもいいぞ」
「これはまだダメです。もう少し、あなたを信用できるようなれたら考えます」

 信用できるようになれたら、なんて、そんな時が来るはずないだろうと舌打ちをしたラディッツは乱暴に差し出された肉に噛み付いた。


main / TOP