※ゲームネタです。プレイヤー視点。
日頃の成果を見せようか、なんて言いながら私を抱き上げようとするソテツさんから離れるために数歩後ろへ下がると、結構な勢いで何かとぶつかってしまった。
壁のような硬い感触ではないそれに慌てて振り返ろうとしたが、私の体を支えるように肩をそっと掴まれてしまって動けない。
「大丈夫かい」
「あ、は、はい」
頭上からかけられた声はどこか冷たさが感じられるものの優しい声音であった。
背中と肩に触れていた温もりが離れスルリと私の横を抜けていったのは、ここスターレスに不本意ながらもやってきてから初めて見る人だ。
ステージに立っているところやフロアで接客をしている姿を見たことがないから運営さんと同じような裏方なのかもしれない。
彼はソテツさんの前へ立つと色白でしなやかな腕を組んで呆れたように肩を竦めた。
「こらソテツ。女性を口説くならいざ知らず、揶揄って面白がるなんてあまり関心しないね」
「なんだ口説くのはいいのか」
「女性の心を弄ばなければ私はなにも言わないさ」
叱るような厳しい物言いではなく諭すような口調でソテツさんに言い聞かせた彼は振り返って私を見る。初めて彼の顔を拝見できた。
紫色のグラデーションが入ったレンズが特徴的な丸眼鏡の奥にある瞳は金色で一瞬だけ爬虫類を連想してしまう。端正な顔立ちはステージの上に立っていてもおかしくないくらいだ。
「君も、あまり彼の言うことを真に受けないほうがいい」
「おいおい、俺だっていつもふざけてるわけじゃないぜ?」
惚けたような表情を浮かべるソテツさんの態度は先ほど私をお姫様だっこしようとしていた時と同じであった。やっぱり揶揄われていたみたい。
「あの、さっきのは冗談だったんですよね?」
「ん? あぁ、まぁな」
「はぁ……ソテツはこういう男だ。気をつけないといけないよ」
「はい、わかりました。えーっと……」
そういえば彼のことはケイさんからなにも聞かされていないから名前も分からないままだ。
困ったように見つめれば彼は察してくれたのか表情を和らげて自分の胸元に手をあてた。
「私は名前。スターレスでは衣装デザインを担当している。君のことはちゃんと耳にしているよ」
「こいつはあまり部屋から出て来ないから、お前、会えてラッキーだったな」
「人を珍獣扱いするのはやめてくれ」
なるほど、だから今まで見かけることがなかったのか、と納得する私に「君も私を珍獣扱いする気かい?」と呆れられてしまい慌てて顔を横に振って否定する。
やはりスターレスにいる方々は一癖も二癖もある人ばかりのようだと私は思いました。