※ギャグ甘(?)
※似非関西弁注意




――私の隣の席には変態がいる。


隣の席の変態くん



「はー…っ、ほんま美桜の髪はいい匂いするな」

今日もまた、いつもと同じ昼休みの光景。

窓際の一番後ろの席に座る美桜は、隣の席にいる白石蔵ノ介に毎日のように髪の匂いを嗅がれている。

運動神経抜群、成績優秀。銀色の首筋まで伸びた髪に切れ長の目、整った顔立ちに程よく付いた筋肉、すらりと高い身長。

どこをとっても"イケメン"という単語しか出てこない。

彼はいい匂いのシャンプーがする女の子が好きらしい。
そして彼好みド真ん中の匂いをしているのが美桜という訳だ。

教室の生徒たちは見慣れたいつもの光景に我関せず、といった感じで、皆思い思いに過ごしている。

白石はというと、美桜の机に自分の机をぴったりくっつけ、彼女の黒いボブヘアの髪に鼻先を埋めている。

お弁当は広げているものの、匂いを嗅ぐことに夢中な彼はお弁当を全然食べていない。

美桜も同様に、密着状態に平然と食べられる程神経が図太くない訳で。

「…お弁当食べられないからどいてほしいんやけど」

ぐーっと白石の肩を押して自分から剥がすも、すぐにまた顔を近付けてくる。

「俺のことは気にせんと美桜はお弁当食べ。放課後まで持たへんよ」

いくら中学生といっても彼はテニス部だ。

運動量が多い部活なので、流石に昼休みに食べておかないと放課後に支障が出るのでは。と、思い、随分前に白石に問い掛けたところ、そこは心配ないらしい。

――いやいや、蔵くんに言われたないわ。ほんまアホやって。黙ってればかっこいいのにな…。


そんなことを思いながら白石に言われた通り、ぽつぽつとお弁当を食べ始める。

匂いを嗅ぐ時に吐かれる白石の息が擽ったくて、軽く身を捩る。
やっぱり擽ったいから止めて――、そう言おうと顔を上げた美桜の瞳に白石とは別の人物が映る。

少し無造作にされた黒髪に短髪、白石より少し身長は低いがバランスよく筋肉が付いている。

無表情の中に少し生意気そうな雰囲気が含まれている彼、財前光は白石と同じテニス部だ。

「……先輩ら何やってんすか」

「えっと…これは…」

美桜の机の前に立って、白石より少し丸い瞳が呆れた様に二人を捕える。

何と答えたらいいのか言い淀むが、財前は特に気にする様子もなく、いつもの無表情で言う。

「それより美桜先輩、辞書持ってませんか?」

「え…」

声のトーンもいつもと変わらない。

そんな彼に美桜は素っ頓狂な声を出してしまった。

「何て声出してんすか。今日辞書忘れたんで辞書貸してください」

「は…!辞書ね。うん、分かった。電子辞書でもええ?」

「大丈夫ですよ」

わたわたと辞書を机の横にかかっているスクールバックから取り出そうとするも、白石が邪魔で取り出せない。

「蔵くん邪魔やねん」

「ぐはっ」

どすっと白石の脇腹に肘を着くと思いのほか強かったのか、脇腹を抱えながら一瞬で離れた。

その隙を見計らい素早く辞書を取出し財前に渡す。

「はい、遅くなってごめんね」

苦笑しながらパステルオレンジのカバーを受け取った彼は、未だ脇腹を抱えて悶えている白石に目を向けてからをじっと美桜を見つめた。

「な、なんでしょうか…」

端正な顔立ちに見つめられることに慣れていない美桜は、頬の体温が上がっていくことに気付き財前から目を逸らす。

そのタイミングを見計らったように財前が美桜の髪に手伸ばす。

軽く一束掴んだそれを自分の鼻先まで持っていき――。

「先輩の髪、好きっすよ。染めたりせんといてくださいね」

ふっと優しく微笑んだ財前に頭の中が真っ白になり顔がいっきに熱を帯びる。

「は…はい…!」

美桜は思いもよらぬ発言にそれしか言えず。

「じゃ、また辞書返しにくるんで」

すぐに美桜のボブヘアから手を離した財前はいつもの無表情に戻っていたが、声音は彼女の反応を楽しんでいるようにも聞こえた。

白石と美桜が呆気に取られてる間に教室から出て行ったのか既に美桜の目の前にその姿はなく。

「……ざーいーぜーんー!」

先に我に帰った白石は悲鳴に近い声を上げながら再び悶え始める。

白石への対抗なのか、それとも気まぐれなのか。

その真意は財前本人しか分かる筈もなく。

美桜は未だ熱が残る頬を隠すように窓の外へ視線を向けた。

Fin.



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