「ねぇ、そのゲーム君もやってるの?」
同じクラスの凪誠士郎くんと話したのはこれが最初だった。
対戦型のオンラインゲーム。私の周りの友達はみんなプレイしていなくて、授業と授業の間の休み時間に一人でちまちまとレベル上げしていた。
「え……これのこと?───あっ」
反射で机の前に立つ凪くんに顔を向けると、操作が疎かになったのかWGame OverWの文字が表示される。
「俺もそのゲームやってる。イベント周回中だから手伝ってよ」
「いいけど……てかプレイヤーランク高……何者」
ゲームを起動しながら前の席に私と向かい合うように座った彼のゲーム画面を見て驚きを隠せない。確かに、よくスマホでゲームしてるなとは思っていたけど。
◆ ◆ ◆
それからというもの二人でゲームをすることが増えた。昼休みだったり放課後教室に残ってイベント周回したり。
それは凪くんの気分次第で、「今日は眠いから帰る〜」なんてことも珍しくなかった。
別に付き合ってはいない。その証拠に一緒に帰ったり、夜遅くまで通話したりもしない。
(でも、女子で話してるのって私ぐらい、だよな)
たまに浮かんでくる優越感に、いかんいかん!と意識を振り払う。
私たちはゲームで繋がっているだけ、それがなければきっと凪くんは私なんか視界にも入っていないだろう。
ちらりとスマホのロック画面に表示される日付をみて、再び思考を巡らせる。
二月十四日まであと一週間。友達として、あくまでW友達Wとしてなら渡してもいいよね?
そんなことを思っていたのが先週。そして今日は二月十四日当日なわけだが。
朝の教室で、自分はなんて考え無しなんだと項垂れる。
(凪くんってチョコ好きだったっけ?そもそも甘いもの食べるっけ?…待てよ…チョコ渡していつも一緒にいる御影玲王くんに何か言われたらどうしよう……)
「何一人で百面相してんの」
「へ?!……あ、おはよう。凪くん」
おはよう〜と欠伸混じりで挨拶する彼はいつも通りで拍子抜けしてしまう。
渡すべきか渡さないべきか、授業なんてちっとも身が入らずにあっという間に放課後になってしまった。
その間にも友達とは友チョコを交換し、バッグの中には他とは明らかに違うラッピングがされたチョコだけが残っている。
「……もういいか、帰って自分で食べよう」
そういえば今日は凪くん、ゲームに誘ってこなかったな、なんてぼんやり廊下を歩いていると背後から聞きなれた声。
「ねぇ、俺のチョコは?」
「え」
まさか考えている張本人がいると思わなくて、言われたことが耳からすり抜けていく。
「今日君からチョコ貰えると思って、ずっと起きてたんだけど。友達にはあげてたのにさ」
何で?と近づいて可愛い表示で顔を寄せてくるから
「あ、ああある!チョコあるから……!」と慌てて綺麗にラッピングされたものを差し出せば、満更でもなさそうな凪くんの表情に自分の気持ちを自覚せざるを得えない。
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「これ本命?」
「一応、本命デス…」
ふーん、と言いながらチョコを口に含む凪くんに目を向ける。
「ま、君からの本命チョコ以外受け取るつもりなかったけど」
(美味しくできてるといいな…)とぼんやり考えていると、不意に顔が近づいて口の中にどろりした甘い感触が広がる。
「………んぐ……?!」
凪くんが自分で流し込んだチョコを舐めとるように、私の口の中を隅々まで堪能する。
「ごちそーさまでした。これからよろしくね、彼女ちゃん」
口を離した彼の表情は確信犯だった。