付き合った話
Maxとき21時20分発が、もう少しで出てしまう。んじゃ、バイバイと手を振った。そうしたら彼女が振り返って口を開く。
「あとね、ごめん。私千石君の事、すごく好きだよ」
彼女は泣きたいのを堪えながら笑っていた。
それは何となく別れの挨拶に聞こえた。もう一生会えないような。いや、会わないという拒絶の壁すら見えてしまう。
俺の身体は待って!という声よりも先に動いた。そして発車の音と同時に新幹線に飛び乗る。
ドアの向こうと隔てられる予定だった彼女は、俺にぶつかられよろけた。しかししっかりと抱きとめる。そして目の前の俺が現実かそうでないか、わからないという顔をしている。
「ねえ!今のってホント!?」
「は!?なんで乗ってんの!?」
「だから今のって嘘じゃないよね!?」
いまいち会話が噛み合わない。目を白黒させている彼女は観念したように、目を伏せてため息をついた。
「本当だよ…なんで、乗ってきちゃったの」
「ここで乗らなきゃもう会えないような気がしたから」
散々俺だけに最高に可愛い笑顔を見せて、特別な言葉も送って、最後に言いたいことだけ言って消えるのは酷すぎる。俺だって何も伝えていない。
「さっきの返事、今言っていい?」
「嫌だ」
「え、どうして?」
「期待してるから」
彼女は苦しそうに声を絞り出し、下唇を噛む。しかし俺は心の中にぶわりと花も散らす、暖かい春風が吹いているような心地になる。俺は自分が思っていた以上に好かれているかもしれない。自惚れたい。
「好きじゃなかったら、こうやって飛び乗ってこないよ」
「千石君、じゃあさ、私の事好きなの?」
一つ一つ絞り出すような声に俺ははっきりと答えた
「うん。好きだよ」
震えるような声を出していた彼女はそっかーと長い息を吐いて俺に向き合った。そして合わなかった視線が一つになる。
「千石君の事が大好きです。私の恋人になってください」
俺は彼女の手を取り、両手で包んだ。秋の入り口に立ってまだ暑いけど手は少し冷たかった。
「こちらこそ、宜しくお願いします。先に言われちゃったなぁ…」
「先に言わせて頂きましたねぇ」
彼女は少し背伸びし、俺は少しかがんで抱き合う。
ドクンドクンと鳴る心臓の音を共有する。初めてあったときよりも何センチも伸びた髪。撫でるともっと強く抱きしめ返される。
上野まであと二分。そこで彼女に降りろと言われるまでずっとそうやっていた。