やっと、倒した。
荒い息を繰り返しながら、その言葉を何度も頭の中でくりかえす。何とも倒したという実感が無く、これは夢か?と思う程頭はぼやけていた。まぁコレが夢であろうが、倒せたならそれでいい。ああ疲れた。今すぐ寝たい気分だ。
だが流石にこんなダンジョンの中で寝るのは勘弁なので、馬鹿みたいに動かない体を奮い立たせ、魔王のいるであろう場所へと向かう。もはや足を上げることすら困難で、ツルハシを棒のように使って前へ前へと進む。ずるずる、と引き摺る音がダンジョン内に響いた。
暫く歩いていると、目の前から「破壊神さ…まっ!?」と何とも煩い声が響いた。今はただでさえキツイというのに、そんな大声で叫ばれると真面目に倒れるかもしれない。そんな事を思っている間に魔王が此方にむかって走って来た。
「っは…ぁ…。まお、う…煩…い」
「ど、どうしたんですか!?」
目の前で魔王があわあわとしながら声を荒上げている。真面目にその声の大きさは堪えるのだが。煩い、と言葉に出すのも億劫なのでウンと顔を顰めて魔王を睨む。
「ほ、り…パ、ワー…あと…1」
人差し指を力なく立てるとずるずると床に座り込む。その際反射的に魔王の服を掴んだようだが、離す力も勿体無いのでそのままにしておいた。もう立てる程の力は残っていない。ぜぇ、ぜぇ、と呼吸をするので精一杯だ。
なんたる失態だ。こんな弱った姿を人に見せる事になるなんて絶対嫌だったのに、憎々しげに思うと下唇をぎりり、と噛む。
魔王の服を掴んでいた手に、ふわりと魔王が手を重ねた。と、同時に体がどんどん軽くなっていく。数回深い深呼吸を繰り返すと、心なしか呼吸が楽になった気がする。
動くのに十分な程回復すると、若干投げやりに「もういい、ありがとう」と礼を言い
、立ち上げる。一刻も早くこの場から立ち去りたい、という思考しか今の破壊神にはなかった。
立ち上がり、歩こうとした瞬間、グイ、と魔王に引き戻らされた。一体何なのだ、と不機嫌な様子を隠しもせず、おもむろに顔に表し魔王を見る。
「何?」
「破壊神さまは、その…堀パワーが無くなると、先程の様になられるのですか」
「だったら、なに」
「何故、もっと早くに教えて下さらないんですか!」
うつ伏せていた頭を上げ、声を震わせながら魔王が喋る。未だに握っている手に、ぎゅう、と力が篭ってきているのが分かる。珍しく怒っている魔王に少しばかり驚いたが、今の不機嫌な私にとっては煩わしいだけである。
「教えてどうにかなる問題でもない」
「ですが、少しでもお力に為りたいのです」
「くどい。魔王にはもう十分力になって貰っているし、大体、話すかどうかなんて私の自由でしょ」
吐き捨てるようにそう言えば、目の前にある魔王の顔が歪んだのが見えた。はっ、と相手を傷つけてしまったという事に気が付き、あまりのバツの悪さに俯いてしまう。これ以上ここに居たってお互いを傷つけるだけだ、と思い魔王に掴まれている腕を振り解く様に動かす。
突如、魔王が強く手を握ってきたかと思えば、先程の脱力感が体を支配する。何が起こったのか理解する間もなく、ガクリと膝から崩れ落ちてしまった。握っていた手をゆっくりと魔王は離すと、いつもより低い声色で話し始めた。
「申し訳ありませんが、少しばかり掘りパワーを取らせていただきました。」
「……!」
先程と同じように、残りの堀パワーは1しか残っていなかった。二度に渡ってこんな屈辱をあじわらせられたという事に、怒りを覚える。只でさえ不機嫌だというのに、それをさらに逆撫でするような行為に、怒りを込めた目で魔王を睨み、フーフーと威嚇をしている猫のように荒い息遣いで怒りを露にする。
しかし今回ばかりは魔王も本気なのか、破壊神の様子を見ても怖気付いたりはしなかった。むしろ自ら身を屈ませて、破壊神の目線とあわせるように体を動かした。
「破壊神さまは、私がどれだけ貴女さまの事を心配しているのか、分かっておりません。私は、破壊神さまが思っている以上に、心配しているのですぞ」
今にも泣きそうに顔を歪ませながら、魔王は破壊神の目を見て真摯に訴えた。そんな魔王の顔を見て、怒りが薄れていくのが分かる。変わりに、ズキリと心が痛んだ。
「お願いですから、もっと私を頼って下さい。私が、不甲斐無いのは分かっておりますが、それでも私は、貴女さまと共に歩んでいきたいのです…」
そこまで言うと、魔王はうな垂れてしまった。もしかしたら、泣いているのだろうか、とという不安が頭を駆け巡る。ええい、とあまりのバツの悪い空気に耐えられず、破壊神は最後の力を振り絞って魔王と自分の間に有る足元の土ブロックをつるはしで壊した。勿論、いきなりの事で魔王はしりもちを着いた状態で痛がり、私は倒れるように魔王の上に跨り、そして首元に歯を立てる。
いきなりの事に、魔王は驚き慌てふためいて、「ちょっ破壊神さ…!」と声を漏らしていたが、それを無視して掘りパワーを頂く。大分存分に頂いた後、ふぅ、と溜め息をつきながら魔王の前に立ち上がる。魔王は先程噛まれていた首元を押さえ、様々な感情が入り組んだ表情で此方を見上げていた。
「魔王、堀パワーは貰ったわよ。後、その、悪かったわ。…もう少し、頼るようにするから」
どことなく恥ずかしくて、頬を掻きながら横目で話す。そんな様子を見て魔王は笑いながら、「破壊神さま」としりもちを着いた状態で手を伸ばしてきた。起こして欲しいのかと思い、その手を応ずるように握り締め、引き起こす。が、何故か逆に魔王に引き寄せられ、思いがけない事に驚き、身を崩してしまう。気が付けば、魔王の頭がすぐ隣にあるではないか。
「少し、とりすぎですぞ」
そう呟いたかと思えば、首元にかすかな痛みが生じる。先程の自分と同じ事をしているのだと理解すると、恥ずかしさがこみ上げる。「ちょっ…ま、魔王!」と慌てて声を上げ、逃げるように体を動かせば、まるで逃がさんといわんばかりに魔王が体を抱く力を強めた。それでも抵抗を続ければ、魔王はほんの少し噛む力を強めた。チクリとした痛さに、思わず肌が粟立つのが分かる。
ぎゅ、と一際強く抱く力を強めたかと思うと、魔王はゆっくりと身を剥がした。そして顔を真っ赤にさせた破壊神を見ながら、「ごちそうさまでした」と口に弧を描きながら声をもらすのだった。
アンケコメを参考に書かせていただきました!
コメントありがとうございますね!