「…38.7度かぁ」
虚ろな目が温度計を見る。ナマエは面倒くさそうに温度計を置き、布団に潜る。ここ数日、何処もかしこも雨が降っていた。その中ギルドの仕事で討伐に行っていたのだ。そのせいか熱が出てしまったようだ。
情けない、と顔を歪め、毛布の中に顔を埋める。
暫くして、うとうとと、まどろみかけた時だった。
不意に、玄関から乱暴に扉を叩く音が聞こえる。
正直動きたく無いのだが、居留守を使うのは申し訳ない。顔をしかめながら気怠そうに体を起こし、玄関へと向かう。
扉を開けると見慣れた顔がこちらを不機嫌そうに見ていた。相手は腕を組み、ナマエを見下ろしながら呆れた声をあげた。
「お前何サボってんだよ」
そういえばギルドに休む事伝えて無かったな、とオレインが来た理由に納得する。そんな事を考えているうちに頭が重くなるのが分かった。熱が上がったのだろうな、とナマエは思った。
「ごめん今日休む…。だから帰って」
これだけの言葉を話すのでさえ喉が焼けるように痛かった。オレインは何故、と顔をしかめたが私のだるそうな様子を見て大体納得したようだ。
「なんだ…風邪ひいたのか?」
オレインは情けないな、と軽く言い、口もとにニヤリと弧を描いて笑った。こんな時でもからかうのか。流石はダンマーだな、と頭の中で呆れた。
「……」
言葉を返す気力が無く、無言でいるとオレインはちらりとこちらを見る。どうやら言葉が返って来無かったのが気になったようだ。
「オイ…何か言えよ。」
その言葉にも黙って居ると、オレインはそんなにキツイのか?と眉を顰めながら聞いてきた。その問いかけにナマエは軽く首を縦に動かして答えた。答えを汲み取ったオレインは大きな溜め息を吐き出し、何故かナマエの家に上がり込んできた。ナマエが抗議の声を上げようと口を開く、が出てきたのは声では無く苦しそうな咳だけだった。
オレインはなおも家の奥へ歩いている。ナマエが何度目かの咳をしたとき、やっとオレインは止まり振り返った。
「ほら、キツイんだろ?寝てろよ」
眠れ無いのはオレインのせいだよ、と頭の中で言い返す。オレインは先程から何かを探しているようで、いろんな所をガサガサと漁りだした。
体がだるい事や風邪が酷いせいか、頭が良く回らなかった。何をしているのだろう、と疑問に思っても、オレインだから大丈夫だろうとさほど何も考えずに自室へ足を進めたのだった。
ベットに戻ったナマエは少し荒い呼吸を繰り返す。先程体温を計ると1度上がっており、視点も定まらない状態だった。頭も先程より回らなくなり、何もしたく無くなる程気怠かった。
「おい生きてるか?」
オレインは扉を開けてナマエの顔を覗き込む。ナマエはうっすら目を開けて数度頷く。
「ほら、水枕だ。少し頭を上げろ。」
ナマエは重たそうに頭を上げる。だが少し高さが足りなかったようで、しびれをきらしたオレインに頭をすくい上げられた。そして枕の上に水枕を置くと、するり、と頭から手を引きナマエの熱を確かめるようにおでこに手を置く。これは結構やばいな、と呟く声がぼんやりと聞こえる。といっても、私の霧がかかった頭では本当に言っているのか分からないが。
しばらくすると水枕の冷たさがじんわりと伝わってきた。
「冷た…」
「そりゃ、こんだけ火照ってたらな。」
気持ちいい、という感覚が頭を支配する。ふと額が冷たい事に気づく。何でだろう、と不思議に思い、自分の手を額にあてる。
ぴとり、と私の手がその冷たいモノにあたる。どうやらこれはオレインの手のようで、そのせいか、「おい、なんだよ」と訝しそうな声をあげている。その声を聞き流しながら、オレインの手を私の頬までずらす。やっぱり、頬の方が冷たさをよく感じられる。
「、おい」
オレインが強張った二度目の声をあげる。「気持ちいー…」と呟きながら手から冷たさをもっと得るためにオレインの手に数度、ゆっくりと猫のように頬を擦る。
「なっ…!」っとオレインが驚いたような声をあげる。しかし熱で馬鹿になったみたいな私の頭では、相手の事など考える余裕などなく、何を驚いているのだろう、とまるで他人事のように頭の片隅で思う。
ふと、気を緩めると、気持ちよさからか強烈な睡魔が襲ってくる。ぼんやりと薄暗くなってくる視界の中で、オレインがたじろぎながら何か言っていたが、もう私には届かなかった。
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すーすーと、規則正しい音が部屋を占領する。どうやらもう完全に寝てしまったようで、おいナマエ、と呼びかけても何の変化も起きなかった。
まったく、こいつは。人の手を握ったまま眠りやがって、と心の中で呆れる。これではギルドに戻れないではないか。このままギルドに戻らなかったらヴィレナが変に勘繰りするのだろうな、と思うとうんざりする。
はぁ、と溜め息を吐き、とりあえずベットの隣にあった椅子を引き寄せて座る。まぁ、暫くしたら勝手に離すだろう。それまではこのままでもいいか、と呆れながらも思うのであった。
(まぁ、たまにはこんな日があってもいいかもしれないな)
20110817