歯には歯を





ぎゅ、と自分の三本の指に、シェパードの指が絡まる。圧迫感を感じる程強く握ったと思えば、不意に力を弱めて遊ぶように指を躍らせる。いつものように膝の上に座っている彼女の視線は、どうやら私の手に釘付けのようだった。

先程からずっとこの調子だ。何も言わず、ただ淡々とお互いの手で指遊びをしている。これは人間独特の行為なのだろうか、それとも只の暇つぶしなのだろうか。なんにせよ、彼女の目的が分からず困惑してしまう。

「少佐。その…楽しいですか?」
「何がかしら」
「この行為です」
「ああ…勿論よ」

とても楽しいわ、と相変わらず手を弄りながら続けて彼女は言った。彼女の満足そうな笑みにひとまず安堵しながら、「そうですか」と声をかける。

「しかし、本当に3本指なのね」
「ええ…今更な疑問ですね」
「あら?疑問に思う事に時期は関係ないわ」

一際強く手を握ってきたと思えば、彼女は顔を此方に向けて微笑んだ。ふと、私の顔を見て何かに気が付いたかのように握っていた手を離し、顔に手を伸ばした。
ぺタリ、と彼女の暖かい手が右頬に触れ、優しくゆっくりと撫でられる。

「硬いわね」
「少佐は柔らかいですね」

あなた達が固いのよ、と目を細めながら、私の顔のパーツをなぞるように撫でる。ふと、右側だけを撫でられている事に気が付いた。怪我のことを気にしての事なのだろうか、という疑問が広がる。

「左頬は、触らないんですか」
「あら、触っているわよ」

そう言って、初めて左頬に手が伸びてきた。まるで割れ物を触るかのように、指先で薄っすらと擦るかのように触れた。
そんな彼女の手を掴み、自分の手を上から押さえるようにして左頬に押さえつける。
勿論、突然の行動に驚いた彼女は反射的に手を引っ込めようとしたが、逃げないようにしっかりと握りつける。

「少佐」
「っ…なに、かしら」

珍しく動揺している彼女を見て、思わず瞼が上がる。それと同時に、いつも為て遣られていた彼女を出し抜く事が出来たという事に、思わず笑みが広がる。

「少佐、気にし過ぎです。今はもう、痛くありませんよ」

そう言って、きつく握り締めていた手を緩め、先程の彼女と同じように優しく手を撫でてやる。私よりも幾分も小さい手から、力が抜けていくのが分かる。

「……そのようね」
「ええ。でも、心配して下さってありがとうございます。」
「そのお礼がこれかしら?ずいぶんなものね」
「驚きましたか?すみません」

笑いを含んだ声色そう問いかければ、彼女は少しばかり不服そうに口を歪ませた。が、途端にいつもの勝気な笑顔を顔一面に広がらせると、私の左頬にある手に力を込めた。

ゆるさないわ、と艶めかしい声が耳を支配したと思った瞬間、彼女に顔を引き寄せられ、右頬に柔らかい感触が広がる。思わず目を見張る私に、「驚いた?」と悪戯っぽく笑う彼女に、同じ仕返しを企てるのは数秒後のことである。

(少佐…人間の言葉には、目には目を、というものがあります)






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