「ア、アリスター!一回あそこで雨宿りしよう!」
バシャバシャと水浸しになった道を駆けながら、後ろに居るであろうアリスターに声を発する。ナマエは一足先にそこにたどり着き、息を整えてながら振り返る。そして前から聞こえてくる足音に笑いながら「早く来ないとビショビショになるぞー」と声をかければ、「ちょっと待てって…、俺は、重装備なん、だぞ…!」と苦しそうな声が返ってきた。
今日はアリスターと共にデネリムに買出しに来ていたのだが、運悪くバケツをひっくり返したかのような通り雨に遭ってしまったのだ。そこまで長い間雨に当たっていた訳でもないのに体中ビショビショに濡れ、髪の毛からは水が滴り落ちている。
腕に抱えている買い物を詰め込んだ紙袋は、雨のせいで色濃くなり、ふやけてしまっている。幸い今日買った物はエルフルートや回復薬など、濡れても大丈夫な物だったので良かったが。こんな日にパンやら肉の買出しだったら悲惨なことになったんだろうな、と想像してナマエは苦笑する。
ザアア、と雨が地面を叩きつける音のほかに、此方に近づいてくる足音が聞こえる。その方向に視線を向ければ、雨のカーテンの中からぼんやりと人影が浮かび上がる。
「あはは、アリスターびしょ濡れじゃん」
「ああ、もう、最悪だぜ」
もはや体の芯まで濡れきっているであろうアリスターが歩いて近づいてくる。「走らなかったの?」と笑いながら問いかければ、「途中で諦めた」と、アリスターは不機嫌そうに答えた。アリスターご自慢の前髪も、雨を含んだせいで萎れ水滴がぽたぽたと落ちている。
「しかし、酷い雨だな」
「本当にね。早く帰らないと風邪引いちゃうかもね」
まぁアリスターは馬鹿だから関係ないか、と小声で呟けば「おい、聞こえてるぞ」と口を尖らせながら言い返してきた。何だかさっきからアリスターの機嫌がよろしくないな、何かしただろうか、と頭の中で原因を考える。
はぁ、とアリスターが深い溜め息を吐く。「どうかしたの?」と顔を窺いながら聞けば、なんでもない、と言うとアリスターは再度溜め息を吐いた。
もしかしたらさっき置いていった事を根に持っているのだろうか。いやしかしそんなつまらない事で不機嫌になったりはしないだろう…。とナマエは頭を振ってその考えを振り払う。いやしかしそれ以外に思い当たる節は無いのだが。うーん、と考えながらチラリと横目でアリスターを盗み見れば、はぁ、と三度目の溜め息を吐いているところだった。
「えぇと…アリスター?どうしたの?さっきから溜め息ばっかり吐いて」
「いや…。別にどうもしてないさ」
む、と今度は此方が口を尖らせる番だった。煮え切らない返事にもやもやする。「言えない様な事かい?」とアリスターの目を見て話せば、「え?いやその…違うんだ、これはだな…」と口をどもらせながら言ってきた。そしてバツが悪そうに頬を掻くと、口を開いた。
「ああもう、分かった、喋る、喋るけど…わ、笑うなよ」
「笑わないよ」
「はぁ…だからな、こう…久しぶりに二人きりだってのにこんな天気だし…」
はぁ、とまた溜め息を吐く姿をみて、笑ってはいけないと言われていたのに、思わず笑ってしまった。途端にアリスターは顔をしかめ、「だから言いたくなかったんだ」と口を一の字にさせて言った。
「いや、ごめんごめん。ただそんな理由だったんだなって」
まだ込み上げてくる笑いを必死に抑えながら、怒らないでよ、と声をかける。すっかりへそを曲げてしまったアリスターは、そっぽを向いてしまっている。
「まぁ、確かに最近は皆と一緒だったからね。…あ、もしかしてこの前の事根に」
「もってない」
ほぼ即答で返事が返ってきたが、そうは言ってもむくれた顔には正直に書いてある。この前のこと、というのは前に一度、いい雰囲気になりアリスターはナマエに顔を近づけた事があった。が、元々表立った所でキスなどといったことをするのをナマエは避けている。そのためナマエは途端に顔を赤らめ、「公共の面前で」「皆の前で」と渋り、結局そのまま何事も無く終わらせたのだ。勿論アリスターは不服そうな顔をしてしぶしぶ承諾したのだが
ふむ、しかし今思えば二人きりになるのも久々だな、と改めて実感する。幸い今はこの酷い雨で周りには住民など誰も居ないようである。
この前の事もあるのだ、たまには恥ずかしいが此方からベーゼを送るべきなのかもしれない。
「ええと…ねぇ、アリスター。その…」
どういえばよいのか分からず、歯切れの悪い語り口になってしまう。アリスターはいつもと違うナマエの様子を不思議に思ったのか「どうした?」と此方を窺いながら言った。
言葉で言えないのなら、行動で示すしかないだろう。彼の名前を呼びながら、目を閉じて顔を上に傾ける。顔に熱がこもっていくのがよく分かる。
アリスターは一瞬、何事、と目を丸くしたがすぐに意味を理解し、方頬を上げ口に弧を描いた。そしてこの前の仕返しのつもりか、「いいのか?公共の面前で」とからかいを含めながら言った。
ただでさえ恥ずかしくて堪らないのに、揚げ足をとられた事でナマエは耳まで赤くさせながら口を尖らせた。そして「もう、知らない」と言いながらそっぽを向けば、アリスターは先程と打って変わって上機嫌に笑いながら、ごめんごめんと謝ってきた。
何だかその笑い顔が気に食わず、反論の声をあげようとしたが、それは口を塞がれ叶うことは無かった。降りしきる雨の音の中に、小さなリップ音が響く。お互い雨によって酷く体温が下がっていたが、触れ合う部分は不思議と暖かかった。
「はっ…ずかし」
「そうか?でも俺は好きだぞ」
こういうの、と続けて言いながらアリスターは貴重な時間を貪る様に堪能する。せっかくあっちから誘ってきたのだ、存分に楽しんでやろうと心の中でほくそえんだのをナマエはまだ知らない。
(ちょ、アリスターもうやめ…!)
(えー?何だって?聞こえないなぁー)